漫望のなんでもかんでも

 トルデシリャス条約

　この条約は、1494年6月7日にスペインとポルトガルとの間で結ばれたもので、両国が盛んに船団を送り込んでいた「新世界」においてともにカトリック国家である両国の紛争解決のために調停に乗り出した教皇アレクサンデル6世の案をベースとしてヨーロッパ以外の新領土の分割方式を決めたものである。

　具体的には、カーポヴェルデ諸島の西1770kmの海上において子午線にそった線(西経46度37分)の東側の新領土がポルトガルの、西側がスペインに属するものと決定された。

　これ以前の教皇シクストゥス4世の布告では、「カナリア諸島以南の新領土はすべてポルトガルに属するものとする」とされていたのを、スペイン出身のアレクサンデル6世がコロンブスの「新大陸発見」という新しい事態、そして、両国間を調停するという口実のもとに、カーポヴェルデの西100リーグの地点を通過する子午線を境界線(教皇子午線)として、東側はポルトガルの、西側はスペインの優先権を認めるとした。「新大陸発見」という事態によって西側への航海熱が高まっていた時代において、ポルトガルのジョアン二世はこの決定に反発、彼はスペインのフェルディナンド二世と直接交渉、境界線をさらに西側に設定することに成功した。

　これがトルデシリャス条約である。

　ポルトガルは1500年にカブラルを「新大陸」に派遣、彼は現在のブラジルにあたる地域に到達したため、ブラジルは「新大陸」の中では例外的にポルトガル領となってしまった。　

　このような事態をイギリスやフランスは指をくわえて見ているしかなかった。両国による反撃が始まるのはもう少し後のこととなる。

　ただ、この時に考慮されていなかった事がある。それは、地球が丸いという事であった。西経46度37分の線の裏側には東経133度23分の線が存在する。地図帳をあけて確認すると、この線は、現在の岡山県と広島県の県境あたりを通過している。

　日本列島で生活していた我々のご先祖様のあずかり知らぬところで、日本はスペインとポルトガルとに分割されていたという事になる。私は今兵庫県は西宮市に在住しているので、この時点ではスペインの領土である・・・。

　この事態を一挙に変えたのが、マゼラン艦隊による世界周航の達成である(1522年)。「地球は丸い」という事が実証された以上、新しい条約、取り決めが必要となる。それがサラゴサ条約(1529年4月29日)である。

　「裏側」における焦点の地域となったのが香辛料の大産地として知られ始めていたモルッカ諸島である。

　熾烈な交渉の末に話はまとまった。線はモルッカ諸島の東、東経144度30分の位置に引かれることとなり、ポルトガルはスペインに賠償金を支払っている。これによってマカオにおけるポルトガルの権益が確定した。

　さて、この線は日本のどこを通るようになったか?現在の釧路付近、タンチョウヅルの生息地の付近である。

　ポルトガル人が日本に来航(漂着?)したのは1543年であるが、領土的要求は行っていない。織田信長が将軍義昭を奉じて京に入るのが1568年、ポルトガル出身のイエズス会宣教師ルイス・フロイスが信長に謁見して宣教師の京都居住を認められるのが1569年。もしもこの時フロイスが「日本はポルトガルの領土って決まってるんです」などと言う事を口走ったとしたら、信長によって八つ裂きにされ、その時点でポルトガル人、スペイン人は全員追放か処刑され、「鎖国」となっていたかもしれない