漫望のなんでもかんでも

　二泊三日で帰省してきました。母を見舞って、実家に泊まったのですが、当然のことながら誰もいません。
　パックのお寿司とサンドイッチと言う珍妙な取り合わせの夕食を取ったのですが、今回初めてと言っていいくらい、「一人で食事をしている寂しさ」が身に迫ってきました。歳なのでしょうか。
　
　四脚の椅子を置きたるテーブルに我一人座り夕餉を食す

　我が家は三世代同居でしたから、祖父、祖母、父、母、姉、そして私と六人で食卓を囲んでいたのですが、祖父が亡くなり、祖母が亡くなり、姉が嫁いで、私も大学入学を機に家を離れました。
　父と母との二人暮らしになったのですが、姉や私が実家に帰ってきたり、私が結婚して孫ができたりすると、椅子の数は増えるわけです。
　私が座って食事をした場所からは、食器棚が見渡せます。

　棚の中に並ぶ食器は八人の客を招くを予定しおれり

　次の日、姉夫婦の家に外出許可を取ることができた母、そして近くに住んでいる娘夫婦を交えて、お寿司の出前を取り、スープとキッシュと言う和洋折衷の料理を楽しみました。母は、とてもうれしかったようで、何度も何度もその楽しさを口にしていました。

　「楽しかったが、美味しかったが」母の何度も繰り返す顔の輝く

　月曜の朝食を摂ってのち、仏壇のある和室にバッグを置いていたので、帰り支度をしていたところ、見馴れぬ本が目に入りました。
　『夢の中のはしご』金子きみ短歌作品集　アズ・ファクトリー　という分厚い本です。650ページほどあります。最初の作品は昭和13年、最後の作品は2003年です。ぱらぱらとめくってみたのですが、たちまち惹きこまれました。

　思わず、手製のメモ帳(B5のプリントを半分に切ってB6として使用)に数首を書きつけました。

〇さつと引き金に手をやる顔だ　そうならずにはおかない顔を見つめる

〇となりの主人も今朝から戦闘帽　戦争が胃の腑にしみてきた

〇軍需工場は騒音のかけつこだ　戦争へと　いつさんなかけつこだ

〇遠くで万歳　また誰かが征く　そして死ぬ　私のペンはまたかわく

〇店には紙もインキもない　文字通り見せる詩は書けない

〇B29へ　ちつちゃいバケツ　どうにもならん　一人の思案にぶつかける水

〇戦争は終わった　敗けだった　泣けそうだ　いや笑へそうだ　表情の立場なく崩れる

〇憲法遵守の灯　なおたかくかかげよう　荒野を残して昭和は去った

〇賢者ロボットの外なく　昭和をあっそうとくくって天皇は逝く

〇爆撃を爆撃でかえすは無能でないか　誰が誰に恥じよう新世紀

〇天下とっている人間の一番大事な仕事が戦争とは・・教科書どう書く


　姉に電話してみると、自由律短歌の活動を熱心に進めている方が高校の同級生にいて、その人に勧められたとのこと。

　以前、私に、自由律短歌の事を紹介した時に、私は、自由律俳句は認めるけれど、自由律短歌なんか邪道だと言ったらしい。歴史を教えている割に、私は自分がいつそんなことを言ったのか完全に失念していた。
　私の浅薄な思い込みをごろりとひっくり返してくれた作品がここにある。とりあえず、借り、また、姉の同級生の方の歌集も借りて、帰りのバスの中で読みふけった。
　縁というものを感じる。
　上に載せたように、五七五七七の定型から外れる歌(のようなもの)を私も作っている。
　符節があった。じっくり読んでみよう。筆写もしてみたい。