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2023.12.15
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その時三津の頭に新たな疑問が浮かんだ。

 

 

「何処に帰るんですか?」

 

 

ちゃんと帰る場所はあるのか。

 

 

壬生狼が待ち伏せてはいないか。

 

 

良からぬ想像が頭の中を駆け巡る。​認識肺癌,本港頭號致命癌症殺手

 

 

「木屋町の方にある屋敷まで。」

 

 

男の口からすんなりと帰る場所が聞けてほっと胸を撫で下ろしたが,また新たな疑問が浮かぶ。

 

 

「木屋町ってどっち?近い?すぐ帰れます?」

 

 

この質問に男は目を丸くして首を傾げた。

 

 

「木屋町だよ?」

 

 

知らないはずは無いだろう

 

 

男がきょとんとしたのを見て三津は慌てて事情を説明した。

 

 

「昨年末にここに来たばっかりなんですよ。

ここで居候しながら働いてるんですけどなかなか道が覚えられなくて。」

 

 

お恥ずかしいと両手で頬を覆った。

 

 

「なるほど。では私の方が町の地理には詳しいようだね。今度案内してあげよう。」

 

 

男は穏やかに微笑んで,ゆっくりと腰を上げた。

 

 

「匿ってくれて有難う。この家の主を起こしてしまう前に帰るとするよ。」

 

 

まさか居候の身だったとは。

 

 

もしこれが知れたら叱責を受けるのは目の前の変わり者の恩人。

 

 

そうなる前に男は静かに出て行く事にした。

 

 

三津は見送らせてくれと勝手口までついて行った。

 

 

「お気をつけて。」

 

 

三津が浮かない表情をするものだから男は大丈夫だと気さくに笑ってみせた。

 

 

「命狙われてる人が大丈夫って言っても説得力無いです。何で壬生狼なんかに。」

 

 

狙われている理由がいまいち分からんと口を尖らせれば

 

 

「仕方ないよ。私が長州藩士である限りは。」

 

 

と笑顔のまま呟いた。

 

 

「長州の人なんや。」

 

 

「そう長州藩士,桂小五郎。壬生狼の前では言わないでね。」

 

 

おどけたように笑った後ゆっくり三津の目線まで腰を落とした。

 

 

「それで君の名前は?」

 

 

「三津です。今日の事は誰にも言いませんから。気をつけて帰って下さいね。」

 

 

桂はうんうんと頷いて,うっすら明るくなり始めた通りを駆け抜けて行った。

 

 

桂の背中が見えなくなるのを見届けて三津は部屋に戻って床に倒れ込んだ。

 

 

もしかしたら今の出来事は全て夢かもしれない。

 

 

だけど悪い夢じゃなかった。

 

 

「ちゃんと帰れますように。」

 

 

寝苦しかったのが嘘みたいに瞼が勝手に下りてきて,そのまま深い眠りに堕ちた。桂と出会ったあの夜から数日が過ぎ,いつもと変わらない何て事のない毎日を過ごしていた。

 

 

本当に夢だったのかもしれない。

 

 

店の前を箒で掃きながら人混みの中に桂の姿を探してみたりした。

 

 

壬生狼に狙われている人間が昼間から町中を歩いている訳ないか。

 

 

頭の中では分かっていても体は勝手に桂を探していた。

 

 

「みっちゃん今日も暑いなぁ。」

 

 

三津が表に立てば自然と人が集まりだす。

 

 

みんなに声をかけられる度に人懐っこい笑みで応える。

 

 

誰にでも懐く三津は町内の人気者で居候している甘味屋の看板娘だ。

 

 

たすき掛けに前掛け,髪を簡単に結い上げた姿が三津の定番で着飾る事はしなかった。

 

 

田舎臭さを残したその姿がみんなに親しまれた。

 

 

どこへ行くにもその格好のままだから女将のトキにはもう少しは身嗜みを気にしろと叱られっぱなしだ。

 

 

近所の大人たちからも

 

 

「みっちゃん化粧したらいいのに。」

 

 

と言われるが

 

 

「似合わんやろ。」

 

 

と笑い飛ばしてお決まりの格好でいるのにこだわった。

 

 

意外と頑固者の三津に一番頭を悩ましているのはトキだ。

 

 

三津の母親代わりでもあるが故,真剣に将来の事を考えているというのに三津には笑って誤魔化され続けている。

 

 

 

 

 

ある日の昼,店番をしていると近所の子供たちが遊んでくれと三津を呼びにやって来た。

 

 

「ええよ,行っておいで。」

 

 

トキの計らいに三津は満面の笑みを浮かべると

 

 

「そしたら遠慮なくっ!」

 

 

店番の格好のままで出て行こうとした。

 

 

「こらお待ち!たすきと前掛けは外して行きなはれ!」

 

 

何度言えば分かるんだときつく怒鳴られようが,お得意の愛想笑いを振りまくのだ。






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最終更新日  2023.12.15 19:43:47
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