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2023.09.22
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カテゴリ:自閉症関連
​​​​​





CA志望の女性が就活中に空港のトイレで出産、赤ちゃんを殺害…
「自首ってなんですか?」彼女が裁判中に笑みを浮かべた深刻な理由



『境界知能の子どもたち 「IQ70以上85未満」の生きづらさ』より



 境界知能の子どもは、
知能指数(IQ)「70以上85未満」とされています。

知的障害に該当する「IQ70未満」ではないものの、
IQの平均域と言われている「IQ85以上115未満」には届きません。

境界知能の子どもは、
普通学級の授業にギリギリついていけるかいけないか
のラインにいる“はざまの存在”なのです。

彼ら彼女らは、どのようなしんどさ、
認知機能の問題を抱えているのでしょうか?

 ここでは、児童精神科医の宮口幸治氏が、
境界知能の子どもたちの実態を解説しつつ、
子どもたちの可能性を伸ばすための方法を綴った
境界知能の子どもたち 「IQ70以上85未満」の生きづらさ
(SB新書)
より一部を抜粋してお届けします。
(全2回の1回目/2回目に続く)



​「IQ70以上」だと障害とは判定されにくい 

知的障害には、おおむね「IQ70未満」という基準があります。 

 逆にいえば、原則として「IQが70以上」あると、
社会生活を送る上で生きにくさを感じていても
知的障害とは判定されにくいことを意味します。

かつて、IQが 71、72、73などと70を少し上回っただけで、
「知的には問題ない」、「知的障害ではない」
と診断されるケースも多々みてきました。 

Kさんは、小学生の頃から授業についていけないことがあり、
母親からよく叱責を受けて育ちました。

それでも成績はおおむね「3」の評価で、目立つトラブルもなく、
どちらかというとおとなしい子どもでした。

大学に進学し、2年のときには、
ハワイに短期間のインターンシップ留学をして職場体験を経験しました。

Kさんの夢はキャビンアテンダントになることです。

4年生になるとKさんは、就職活動のためにたびたび上京し、
航空業界やホテル業界を中心に就職試験を受けます。

しかし、企業に提出するエントリーシートの質問の意味がわからず、
空欄ばかりになることもありました。


​知的障害の様相が「身勝手で短絡的」に​​

 さらにいえば、裁判長が判決文で述べた
「身勝手で短絡的」に見えてしまうというのも、
まさに知的障害の特徴のひとつと考えます。

知的障害であれば、先のことを想像して考えるのが苦手なので
問題を先送りしたまま現実に直面し、
場当たり的な行動に出てしまう可能性もあるのです。

 ほかにも判決文には、

「空港職員等に助けを求めようともしていない」



​羽田空港のトイレで出産
​​ 


実はKさんは、誰にも言えない秘密を抱えていました。

就職活動をしながら、臨月の身だったのです。

両親はこれまでになく喜んで就活を応援してくれます。

「関係が崩れるのが怖い」
と思い、相談できません。

 2019年11月、

就職活動のために上京した羽田空港のトイレで
Kさんは赤ちゃんを産み落とします。

そして直後に殺害。

遺体を紙袋に入れて空港内にあるカフェに向かいます。 

そこでアップルパイとチョコレートスムージーを注文し、

写真を撮影。

「頑張っている自分へのご褒美」
というコメントをつけてインスタグラムにアップしています。

その夜、Kさんは東京都港区の公園に移動し、
素手で穴を掘り、遺体を埋めました。

そうして翌日、予定通りに就職面接を受けたのです。



​気づかれない「境界知能」だったKさん

 ​赤子の殺害の事実だけを記事で読めば
Kさんのことをサイコパス的な、まるで理解不能な人間、
その行動は常識が通じない身勝手なものだ
と思われた方もおられるかと想像します。 ​

 ​Kさんの事件の判決は2021年9月に下されました。

裁判長は
「就職活動への影響を避けるべく、
自らの将来に障害となる女児の存在を
なかったものにするため殺害した。
身勝手で短絡的だ」
と述べ、
懲役5年の実刑判決を言い渡しました。 

でも果たして、
「身勝手な人間だからこんな犯罪を行った」
のでしょうか。

実は、この事件にはある背景がありました。

公判前の検査では、
被告人のIQは74で「境界知能」に相当していたのです。

境界知能は、正常域と知的障害の間に追加されるイメージです。

一般に、IQ70以上は
知的障害と判定されないことも少なくありません。

しかし、IQ70~84は、
何らかの支援が必要とされる「境界知能」に当たります。

「知的障害グレーゾーン」とも呼ばれる境界知能は統計学上、
人口の約14%が該当します。

成人でおよそ中学3年生程度の知的能力です。

障害ではないので、行政の支援の対象外です。

行政の福祉サービスを受けるには、
療育手帳を取る必要がありますが、
境界知能では、手帳は取れません
(ただし、発達障害で手帳を取れる可能性はあります)。


 今、声を大にして申し上げたいのは
「発達障害でも知的障害でもない境界知能の人たち」
の存在です。

今の福祉サービスでは、知的障害の人が受けられる支援や
発達障害の人が受けられる支援の両方から外れてしまうのです。

​後先を考えて行動するのが苦手​​

 先述したKさんは、
裁判中に「自首」や「殺める」といった言葉が理解できず、
ごまかすために笑うなどして裁判長が
いらだつ場面があったと報じられています。

また、「自首を考えなかったのか」と問われ、
「自首ってなんですか」と問い返し、
「そんな制度があるなんて知らなかった」

と答える場面があったそうです。

 それでも、彼女の知的能力は
「低いとはいえ正常範囲内で大きな問題はない」
と裁判所では判断され、懲役5年の実刑判決が下されます。


 一般的に、知的障害をもつ人は、
後先を考えて行動するのが苦手です。

境界知能の人にもその傾向はあります。

これをやったらどうなるのか?
先のことを想像するのが苦手なのです。

とくにあわてて何かをしなければいけないときに、
後先を考えずに場当たり的に判断し、突発的な行動をしがちです。

​うまく人に相談できない​​

 真相はわかりませんが、Kさんは、
計画性があったわけではなく、
突発的に殺害してしまった可能性もあります。

弁護側は最終弁論で
「被告には、エントリーシートを埋めるよう
アドバイスをする人もいなかった。
事件についても、相談できる人がいれば起きなかった」
と主張したそうです。

 うまく人に相談できないというのも、
知的障害や境界知能によく見られる特徴です。

とくに境界知能の場合、
「やる気がない」「怠けている」ととらえられ、
周囲の人に理解されないまま、
挫折を重ねて孤立するケースが数多くあるのです。

 証人として出廷したKさんの母親は、
幼い頃から叱責を繰り返したと打ち明け、
「苦しい気持ちを何ひとつわかっていなかった」
と泣きながら証言したそうです。

本来ならば、社会に出る前に
家庭や学校で支援の道筋を立てる必要があったのに、
と無念に思います。

​​​知的障害の様相が「身勝手で短絡的」に​​​

 さらにいえば、
裁判長が判決文で述べた「身勝手で短絡的」
に見えてしまうというのも、
まさに知的障害の特徴のひとつと考えます。

知的障害であれば、先のことを想像して考えるのが
苦手なので問題を先送りしたまま現実に直面し、場
当たり的な行動に出てしまう可能性もあるのです。

 ほかにも判決文には、

「空港職員等に助けを求めようともしていない」

「妊娠を隠し続け……これを直視せず、
先送りしたまま出産を迎え……」

「問題解決が困難である際に姑息的(一時しのぎ)
あるいは強引な行動に至る傾向があり……」

「母親に妊娠の事実を隠すなど……」

 といった内容が書かれていました。

困ったときに1人で抱え込んでしまい、
融通を効かせて他者に助けを求めることが
苦手だというのも、
まさに知的障害の特徴のひとつと言えるかもしれません。

​「普通の人」として裁かれ、判決が下されることも​​

 これだけ知的障害の特徴とも解釈できる様相を
呈しているのに、
知的な問題があるとは受け止められずに、
本人の身勝手さ、思慮の浅さばかりが
浮き彫りにされてしまったのです。

 これは場合によっては
冤罪にもつながりかねない大きな問題だと思っています。

 先日もある県で裁判官向けに
境界知能について講演をしたのですが、みなさん、
知的障害についてすらあまりご存じではありませんでした。

「知的障害ってそもそもどういう状態を指すのですか?」
というレベルの方もおられました。

「境界知能」であれば
さらにご存じない方も多いはずです。

そんな裁判官の方々が、
被告人がおぼつかない言動をとり質問に
適切に答えられない様子を見せても、
知的な問題を疑うのは難しいと思いました。 

 知的障害があったとしても、気づかれずに
「普通の人」として裁かれ、
判決が下されることもあるわけです。

これは恐ろしいことだと思います。


​​




いくら隠そうとしても、
妊娠を実際に隠してトイレで出産とは信じられないできごとで、
親御さんが全く気が付かなかったのだとしたら、
親の方にも何か問題がありそうですね。


​哀しく、辛い事件でしたね。












​​

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Last updated  2023.10.10 07:52:55
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