【密やかな結晶】小川洋子著 講談社文庫
これもかなりオモシロい。読み終えた後、呆然と自分の置かれている状態が何なのか、小説と混同しそうだった。映画を見た後の現実と映画の間にいるような感じで余韻が残る。モノゴトがある島から消滅していく話。バラの花が消滅し、鳥がなくなり、帽子がなくなり、写真がなくなり、小説もなくなってしまう。消滅したものの存在も人の記憶の中から消滅してしまう。人にとって記憶しておくってことは確かに存在であって、モノが存在しているから記憶が残るとはかぎらない。モノが存在していても、人それぞれにとって価値がないモノはその人の記憶には残らない。それはその人にとって存在しているとは言えないのだ。反対に、モノゴト、手元になくてもその存在価値はある。存在していなくても記憶に残ればその人にとって存在となる。この話はモノゴトの存在も人の中にある記憶の存在も消滅していく。わたしにだって消滅してしまったモノはたくさんあるんだろな。存在が記憶であること、個体として存在するもの、消滅したもの、自分の世界だけが存在となるコトなどの価値観など、この話と関係あるんだか、ないんだか、微妙な自分の世界も楽しませてもらった。淡々とした調子なのに話に展開があっておもしろかった。