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近代日本文学史メジャーのマイナー

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2020.11.01
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カテゴリ:昭和期・後半男性
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  『恋する原発』高橋源一郎(講談社)

 まず冒頭に、献辞のような形で2ページ、各2行ずつで、こうあります。

 すべての死者に捧げる……という言い方はあまりに安易すぎる。
             (「インターネット上の名言集」より)

 不謹慎すぎます。関係者の処罰を望みます。
                  ――投書

 続いて、「前書き」あるいは「緒言」のような形でこうあります。

 いうまでもないことだが、これは、完全なフィクションである。もし、一部分であれ、現実に似ているとしても、それは偶然に過ぎない。そもそも、ここに書かれていることが、ほんの僅かでも、現実に起こりうると思ったとしたら、そりゃ、あんたの頭がおかしいからだ。
 こんな狂った世界があるわけないじゃないすか。すぐに、精神科に行け! いま、すぐ!
 それが、おれにできる、唯一のアドヴァイスだ。じゃあ、後で。

 実際にはさらにこの3ページの文は、字のフォントや大きさが、細かく異なっているのですが、それは省略いたします。とにかく、これだけのページを使ってから本文が始まります。ざっくり、その話の主人公を紹介しますと、中年のアダルトヴィデオの監督であります。

 その主人公が、東日本大震災のチャリティーのAVを作るというのが、簡単なストーリーです。
 今から作ろうとするAVのアイデアや、AV現場の様々な人物のエピソードなどが絡んできて、まず一本の線を作っています。そこに現れるエピソードは、ウンコの話てあったり、老人の性の話であったり、そしてダッチ・ワイフの話であったりします。

 筆者はかつて、やはりAV現場の話を小説にしていましたし、作中の一挿話としてもAV監督の話を書いていました。(田山花袋がAV監督をしている話なんかがありましたね。)

 だからというわけでもないでしょうが、ぐいぐいと引っ張って読者の琴線に触れるようなところに落としていく話は、こちらの「本線」にあります。(また、この手の話は実際コミカルにリリカルに描いていくと、「やがて悲しい」感覚に身につまされるように導かれて行きます。)

 しかし、もう一本の「本線」がこの小説にはあって、その中心に位置するのは、まず原発事故によって表面化した我が国の原発政策であります。
 その他にも、第二次世界大戦における日本軍兵士たちの苛烈な境遇であったり、ヒロシマ原爆の話、そして天皇並びに「ヤスクニ」神社の話、といった事柄に対する激しい告発が描かれています。

 これは本書に限ったことではありませんが、以前よりそして現在に至るまで、筆者は文学の立場から、社会変革のための警告や告発を持続的に発信しています。
 本書においても、そんなストレートな表現があります。例えばこれ。

​ 文学というものは、これまでもずっと、気の遠くなるような長いあいだ、それを読む人びと、彼らが属している共同体の「倫理」を語ってきた。その共同体が危機に陥るとき、それはもっとも甚だしかった。​

 実は私は、本書を読んでかなり感心したことがあるのですが、本書の初出が2011年11月号の「群像」であると記されていたことでした。
 2011年3月11日に大地震・津波が起こり、原発事故が起こり、特に原発事故の部分については、11月と言えば事故そのものがまだリアルタイムで持続している最中ではありませんか。

 そんな時に(なるほど、そう知ってしまえばかなり「荒っぽい」感じのする展開もあるとしても)、これだけの作品はそうざらに書けるものではありません。
 何より、筆者の書くことへの強烈な意志力を感じさせます。

 冒頭で、私はこの本の「献辞」「緒言」を挙げました。
 本書のストーリーは、殆ど荒唐無稽のようなセックスにまつわる滑稽で恐ろしくも悲しいエピソードが続きます。(この部分の面白さについても上述しました。)
 そんなこんなの思いつく限りの工夫を凝らして韜晦し、そして初めて、大声で原発を巡る我が国の様々な政治的状況を告発する筆者の姿には、私は、純粋に素朴に頭が垂れる思いがしました。

 独立した文学作品としては、あるいは色々と「傷」のある小説かも知れませんが、私は、感動したといって間違いはありません。


 よろしければ、こちらでお休み下さい。↓ 
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Last updated  2020.11.01 14:55:47
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