「ビアンキの自転車事故で賠償1億5千万円」の疑問点。
みなさん、こんにちは。 表記の件、ビアンキのクロスバイクで走行中に、「サスフォークが抜けた」とする事故で頸椎を損傷し、下半身不随になったかたが起こした裁判で、東京地裁で1億5千万円の賠償を命じる判決が出ました。僕は40年来の自転車マニアでもあるのですが、どうも腑に落ちない点があり、ちょっと調べてみました。 「抜けた」とされるフロントフォークは、台湾のRST社製で、アウターチューブに水が侵入すると中に滞留してしまう構造になっており、なおかつ伸び側のストッパーをバネだけに頼っていたことから、バネが腐食破断してストッパー機能を果たさなくなり、走行中の振動で抜けたと判断され、自転車側の欠陥が認定されたことによる判決だそうです。 なるほど、水が入ったら滞留する構造や、ストッパーがフェイルセーフ構造になっていなかったという点では、「問題のある設計」と言うことができます。しかし、自分でサスフォークを使用したり、分解したりした経験から、それだけで走行中に抜けるとは考えにくいんですね。 サスフォークのストロークは少ないものでも3cmぐらいはありますし、それをスムーズに動かそうとすれば、少なくとも10cmぐらいの”差し込みしろ” が必用です。これを走行中に抜こうと思ったら、歩道の段差(切り下げの無い部分)を乗り越えるような感じでフロントを持ち上げるか、ウイリーでもしない限り不可能なんじゃないかと思うんですね。 再現実験は簡単です。スプリングの固定を外すか、意図的に破断させた状態で、どんな状況なら抜けるのかを確認するだけでよろしい。事故のあった場所を原告の供述と同じ走りかたで走行して、抜けるかどうかも確認してみれば良いでしょう。 また、今回の事故をネットで検索してみたら、こんなサイトを見つけました。 これを見た限りでは、バネの破損は事故よりかなり以前に(少なくとも、バネのは断面を錆が覆ってしまう程度の時間)発生していたのは明白です。今回の事故との相関は低いのではないかと思います。 さらに、アウターチューブの破断面が楕円になっていることからも、フォークには強い曲げ応力が作用していたと考えられます。もっとも現実的なのは、前輪に何かを巻き込んで、それがスポークとフォークの間に挟まってロックし、自転車がジャックナイフ状(ウイリーとは逆に、後輪が持ち上がって逆立ちすること)になって転倒したのではないか、という転倒モードです。これなら、原告の「ふわっとなった」という証言とも整合しますね。 もちろん、ジャックナイフをしたぐらいでフォークが折れてしまうとしたら、それはそれで強度不足=設計上の欠陥ということになりますが、「真実でない理由」のまま判決が確定してしまうことだけは、避けるべきではないかと思います。 恐らく販売元は上告すると思われますが、そうした視点からも検証が行われるべき事案ではないでしょうか。 3月30日追記担当弁護士から判決文が公開されました。ジャックナイフ現象は否定されたようですが、根拠を当日の携行品と目撃情報に頼っているというのはどうかと思います。巻き込むのが携行品だけとは限りませんし、目撃者は事故前から逐一被害者の挙動を見ていたとは考えにくく、信憑性は十分とは言えないのではないか。「フォークにもスポークにも何かを巻き込んだ痕跡が無かった」というなら納得できますが、そこは調べなかったのでしょうか。原告被告双方で再現実験も行われたようですが、結論の「分離の場合前のめりに転倒する」というのは、当たり前すぎ。実験しなくてもわかります。立証すべきは「転倒の原因がフォークの分離なのかどうか」であるはずですが、そこがどうなったのかには触れられていません。念のため書いておきますが、僕は被告の肩を持つわけではありません。怪我をされた原告のかたはお気の毒に思いますし、早く判決が確定されれば良いと思っています。でも、なんだかスッキリしないんですよね。事故車は原告の元にあるようですが、警察が証拠保全のために押収しなかったことが、なおさら事態をややこしくしてしまったのではないでしょうか。