カテゴリ:連載小説
アリサは翔太に見守られながら、無事に部屋の真中にあるテーブルにお盆を置いた。
そして、ティーポットに入れてあるお茶を、ティーカップに注ぐ。その動作は歩いてきた時よりは、人間に近い滑らかな動きだった。 「はい、どうぞ。」 「ありがとう。」 翔太は差し出されたお茶を受け取り、口をつけた。アリサのブレンドした紅茶は翔太の好きな味だ。それを飲むと翔太は、体中に安心感が広がっていくような気がする。 「翔太さん、何してたんですか?」 「ああ、勉強してた。もうすぐ定期試験だから。」 翔太の机の上を眺めながら聞いたアリサに、翔太は机の上に広げていた数学の参考書を見せた。 「すいません。勉強の邪魔しちゃいましたね。」 そう言って部屋を出て行こうとするアリサを、翔太は引き止めた。 「いや、いいよ。ちょうど休憩しようと思ってたところだから。」 翔太がそう言うと、アリサは安心した表情を浮かべた。いや、アリサがそこまで細かく表情を変化させることができるのかはわからない。翔太がそう思ったから、そう見えるだけかもしれない。 「定期試験ですか・・。翔太さんは成績が抜群に良いんですよね。すごいなあ。」 「そんな良い事ばっかりじゃないよ。そのせいでクラスメイトからは嫌われてる。」 「・・だから学校には行かないんですか?」 翔太の自嘲気味な言葉に、アリサはそんな疑問を返してきた。 「ああ、そうだな。・・・行かなくても困ること無いし。」 翔太はテーブルの上に置いてあるティーポットからあがっている湯気を眺めた。不登校の理由はそれほど単純なことではないけれど、まあ、それが大きな原因であることは間違いない。 「・・そうですか。」 そう言ってからアリサは、一点を見つめたまま動かなくなった。部屋の中に沈黙が訪れる。 まさかフリーズしているのではないかと翔太が思うほどの時間、アリサは止まったままだった。しかし、翔太がそれを確認するために声をかけようとした瞬間、またアリサは動きだした。 表情はやや乏しいが、ぱっと見ただけでは普通のきれいな女性と見分けがつかない顔。その顔で翔太を正面から見つめて、アリサは問い掛けた。 「学校に行かなければ、困ると思います。」 たっぷりと間を置かれて予想外のことを言われた翔太は、一瞬答えに詰まってしまった。アリサはそんな翔太から視線をはずさず、答えを待った。 「・・・それは、学校に行かなくても、俺は一人で勉強できるし。」 「けれど、学校は勉強をするだけの場ではなく、社会性を養ったり、楽しい思い出を作ったり、友人を作ったりする場でもあります。」 アリサの当然と思える指摘に、翔太はどう言って返せば良いのかわからなくなった。今度は翔太の方が、フリーズしたようになってしまった。 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年03月08日 15時14分03秒
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