連続小説1「マチビト」 2-4
彼女は、僕が思っていたよりも明るい雰囲気の人だった。 広場のベンチに座っている彼女を見て、もっと暗いイメージを想像していたので、楽しそうに笑う彼女が意外だった。僕は、そんな彼女に好印象を持った。「僕は、大野友宏と言います。お察しの通り、あそこの雑貨店でバイトしています。」「私は、山下加奈子。ご存知の通り、日曜日はここで待ち合わせをしています。」 ご存知の通り、そう言って彼女は笑った。「確かに、知っています。毎週ここに居ること。・・・やっぱり待ち合わせをしてるんですね・・・」「うん。待ち合わせ。・・でも、待ち人は来ない。・・なんだか気味悪いわよね。毎週日曜日にただ待ってるだけの女って。」 彼女は自嘲のニュアンスをこめてそんなことを言った。 やはり、遠くから眺めていた時から思っていたが、彼女は大きな苦しみを抱えていた。明るい口調の中にも、彼女の心の奥に沈んでいる暗い塊の一片を、僕は垣間見たような気がした。「いや、気味悪いだなんて全然思わないっすよ!とっても綺麗な人がそうやって毎週日曜日に現れるって、むしろミステリアスで魅力的って言うか・・。」 僕は彼女の言葉に対して精一杯のフォローをした。そんな僕を見て、また彼女はクスクスと笑い出した。「・・今度はなにがおかしいんですか?」「なんか、頑張ってフォローしてくれてるのがおかしくて。・・いや、馬鹿にしてるとかじゃないのよ。なんか、私がミステリアスで魅力的って・・やっぱりおかしい・・。でも、慰めでも、そう言ってもらえると嬉しい。ありがとう。」 彼女はそう言ってまた笑顔になったので、僕は少しだけ安心した。 話して見ると、彼女はより魅力的だった。明るくて、楽しくて、よく笑って・・だけど彼女は、心の奥に大きな苦しみを抱えている。 僕は、彼女に惹かれるのと同時に、彼女の中の苦しみとどう接していいのか困惑していた。