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テーマ:ミステリはお好き?(1450)
カテゴリ:Mystery
戦前は「金瓶梅楼」、戦中は「梅遊記楼」、戦後は「梅園楼」と名付けられた遊郭には、それぞれの時代を生き、「緋桜」と呼ばれた三人の遊女がいた。 13歳にして身売りをし苦界に身を沈めた初代緋桜は、辛い郭づとめの中で世にも怪異な現象に遭遇したのがことの始まり。 売れっ子の遊女が原因不明の身投げにより死亡、自殺か事故あるいは他殺、それとも郭に出没すると噂される遊女の祟りの為せる技であろうか。 緋桜もなにかに取り憑かれたように身投げを図り、辛くも一命を取りとめる。 時を経て二代目緋桜のときは、不義の子を身籠って郭に身を寄せていた女が投身して命を落とす。 時代変わって三代目緋桜のとき、投身したのは梅楼園に出入りして客であった。 そしてこの事件の取材に当った推理作家佐古壮介までが、梅楼園の露台から転落死を遂げた。 三代にわたり「緋桜」が絡んだ謎の解決は刀城言耶に託されたのだが..... -------- 第一部が初代緋桜の日記 第二部が遊郭女将、半藤優子の口述 第三部が作家佐古荘介の遺稿 第四部が上記資料に基づく、刀城言耶による推理 という凝った構成になっており、すべてが 信頼できない語り手による記録 を読ませられているのでは、という疑念を終始頭の片隅に置きつつ読んだ。 その推測もあながち間違いではなかったいう事件の真相ではあったが、第四部でようやく登場した刀城言耶が披瀝した解釈は、残念ながら説得力ある解答とは感じなかった。 すべてのトリックの根幹をなす一人〇〇の設定に無理がありすぎるのだが、このトリックなくして本作のレトリックなりスタイルなりは成り立たないがために、力技でやったのけるのもやむ無しだろうか。 しかし本格ミステリージャンルのトリックとしてはロジックに破綻があっても、怪奇幻想ものの構想としてはこれは大いにありだとは思う。 幻想小説においてなら論理破綻上等、と思うところもあって私は本作の作風が嫌いではない。 ちなみに怪奇幻想風味といっても、描写におどろおどろしい雰囲気は薄く、むしろ淡々と一抹の哀切感も漂う語り口は好もしく、遊郭の風俗を描いた小説として興味深く、遊女たち一人一人の個性と彼女たちに絡む登場人物の巧者かつ抑制の効いた描き込み方などエンタメ性も充実、読み応えがあった。 ラストはもはや作者のお家芸らしい、探偵も読者も全ての真実を知りえないことを示唆する幕切れだが、それゆえ、ロジックの及ばないところまでも読み手の思考と深く導いてくれるような。 たとえそれが誤導であっても一向に構わない。そんな印象すら受けた。 それでも刀城言耶の出番が少ないのは物足りない。 やはり刀城言耶は安楽椅子探偵の役回りではなくて、先輩民俗学者阿武隈川烏とともに民俗採訪のフィールドワークに勤しんで、ついでに怪事件解決挑んでほしいなあ。 と、刀城&阿武隈川の相棒ファンの戯言だけど。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018.09.26 20:47:12
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