ゴミ捨て場に遺棄された覆面レスラーの死体は、後頭部の髪が無惨に切り取られていた。所轄の刑事三瓶と組む格闘技マニアの新人・城島は、不思議な魅力を持つ青年犬飼の鋭い指摘を受けて事件を追うが、犯行を告白するメモを残した男が死体で発見される。二人の男の怪死が描く構図が反転し、驚愕の真相をもたらす「覆面」ほか、端正かつ周到な仕掛けを鮮やかに結ぶ、本格推理連作集。
伯方雪日さんの「誰もわたしを倒せない」の感想です。
東京創元社のミステリフロンティアから刊行された連作作品で文庫化したので読んでみましたが、解説が乾くるみさんというのも納得なトリッキーな作品で非常に楽しめました。
今作は世にも珍しいプロレスの世界を舞台とした本格ミステリとなっていますが、プロレスだけでなく総合格闘技にも深く関わっていて現代的ですね。
私は結構、格闘技とか好きなので基本的なディティールから楽しめましたが、格闘技に疎くてもメインの語り手の1人となる三瓶刑事が素人という設定になっており、同じく語り手の格闘技マニアの城島刑事を通して不都合を感じずに読めるかと思います。
以下、1編毎の感想です。
「覆面」
プロレスではお馴染みの覆面レスラーが殺害され、その被害者は誰かという謎が描かれています。
事件と並行して覆面レスラー・カタナとなる人物の描写もあり、更に事件に深みを与えていると思いますが、少し真相は読み易いかもしれないですね。
でも死体の髪を切った理由は良く出来ています。
「偽りの最強」
「覆面」から数年後を舞台にホテルでの不審な事件に八百長を絡めていますが、ミステリ色は少し薄くなった感があります。
華々しい業界の裏側を描いたという感じで読み応えは十分だと思います。
「ロープ」
こちらでは違った意味での裏側である新人道場を舞台にした殺人事件が描かれていますが、犯行方法は少し微妙な感じがします。
ただ、そこに現実的にありそうな過酷な道場の様子を読ませ、更にミステリとしても読ませる手腕は見事だと思いますし、ある仕掛けも見事に成功しています。
「誰もわたしを倒せない」
「世界最強」と言われる格闘家がプロレス技で殺害されるという冒頭から惹きつける謎が登場します。
連作らしく「偽りの最強」と深く関わっているのも良い感じですが、真相は「ロープ」よりも更に微妙と言うか、バカミスなのでは?と思える内容でしたw
この後に「エピローグ」として後日談が付くのですが、連作作品としては必要不可欠なラストという感じでしょうか。
流石に驚きは少なかったですが、終わり方としては綺麗にまとまっていて良いのではと思います。
まだ今作しか作品を出していないみたいですが、格闘技という一風変わった世界を舞台にしたミステリをもっと読んでみたいですね。