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2016.08.25
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陸王・池井戸潤


☆陸王・池井戸 潤
・集英社
・2016年7月10日 第一刷発行
・初出 「小説スバル」2013年7月号〜2015年4月号

♣︎主な登場人物
・宮沢絋一=こはぜ屋社長
・宮沢大地=絋一の長男、連戦全敗の就職活動中
・富島玄三=経理担当、62才。
・坂本太郎=埼玉中央銀行融資担当→東京キャピタル東京本社営業部
・飯山晴之=元シルクール社長、シルクレイの特許を持つ
・村野尊彦=この道30年のカリスマシューズマイスター
・有村融(とおる)=スポーツショップ経営、ランニングインストラクター
・城戸明宏ダイワ食品陸上部監督
・茂木裕人=ダイワ食品陸上競技部員、怪我により一線から外れる
・毛塚直之=アジア工業陸上競技部員、茂木裕人のライバル
・小原賢治=アトランティス日本支社営業部長
・佐山=小原の部下
・御園丈治=ベンチャー企業・フェ二ックス社長

*アトランティス=大手スポーツ用品メーカー
*フェリックス=アウトドア関係のアパレルを展開している企業
*シルクレイ=クズ繭を原料にした理想の素材。シルク+クレイ(粘土)

足袋の町、埼玉県行田市にある老舗足袋業者「こはぜ屋」。社員数はパートも入れて27名、平均年令57才、最高齢は75才、人も古いが機械も古い。足袋の需要は底をつき、売り上げは減少の一途を辿っており、4代目社長の宮沢絋一は日々資金繰りに頭を抱えていた。

ある日、娘に頼まれたスニーカーを買うためデパートのスポーツ用品売り場へ行った宮沢は、靴底が平らで5本の指がついた奇妙な形をした靴を見つけた。店員はビブラム社の「ファイブフィンガーズ」という裸足感覚で走れる人気のランニングシューズだという。しげしげと眺めた宮沢は、見ようによっては、こはぜ屋の主要商品である地下足袋に似ていると思った。パンフレットを見せて、会社存続のための新規事業にならないか検討して見たいという宮沢に、先代から経理を担当する富島玄三は良い顔をしなかった。
だが埼玉中央銀行の坂本は、ファイブフィンガーズの写真を一目見て「最近流行りの奴ですよ」と言つた。宮沢が考えている新規事業の話を聞くと興奮を帯びた口調で「いいですね。どんなランニング足袋ができるか楽しみにしています」と言い、先ずは走るという事の理解が必要ではないかと、知り合いのランニングインストラクター、有村融に引き合せてくれた。宮沢は、真面目に走りを研究している人からみれば、マラソン足袋を復活させようという考えはふざけた話にしか聞こえないのではないかと不安だった。ところが、有村は熱心に耳を傾けてくれたうえ「上手くいく望みはあるのか」と問う宮沢に「もちろんありますよ」と真顔で答えた。足袋そのものはランニングに向いており、昔は学校の運動会でも履いていたが、グラウンドにはいろんな物が落ちており安全上の理由から今はほとんどなくなっているという。だが、市販のランニングシューズなら安全かというとそうでは無いと言い、売れ筋の踵にクッションが入っているジョギングシューズを見せた。この靴は構造そのものに問題があり、踵から着地してつま先で蹴るという間違った走法に導いてしまう可能性があり、故障を起こしやすいのだと言う。
近年、有名選手の走法を解析した結果、オリンピックで活躍するケニアの選手や日本の一流アスリートたちは足の中央付近で着地する「ミッドフッド着地」で、中にはもっと足の先で着地する「フォアフット着地」の選手もいることが判明したこと。また、この走法の方が早く走れ故障も少ないのは、人間本来の走り方だからだという。話はどんどん広がり、人間はなぜ走るのか、どういう走り方がふさわしいのか、本来はどう生きてきたのかと、走りの歴史から人類そのものの歴史につながっていき、有村の話はとどまるところを知らない。そして最後に「インストラクターの私の仕事は、その人間本来の走り方で、故障することなくジョギングやレースを楽しんでいただくことなんですよ」と言った。宮沢は有村の話に感心するというより、むしろ感動すら覚えた。

新規事業の準備に追われているうちに月日があっという間に過ぎ、その日、宮沢は息子の大地と共に有村が是非にと誘ってくれた京浜国際マラソン会場にいた。大地は色んな会社の中途採用の試験を受けたが、採用通知を受け取れないまま年を越し、自分には何が足りないのか悩んでいた。
品川をスタートした選手たちは凡そ20キロ先の生麦付近で折り返してくる。会場内に映し出された映像でランナーの足の運びを注視していた宮沢は、トップを走る3人のケニア人の走りが他の選手と違うミッドフッド着地だと気付いた。
その時、膝を痛め脱落しようとしている一人のランナー、茂木を、ライバルの毛塚があっという間に引き離して行った。見ていた大地が「こんな形で負けて欲しく無いな」とつぶやいた。

「マラソン足袋の開発チームを立ち上げたい」という宮沢に、父の代からの大番頭とも言える富沢は、内心を表面には出さず、古ぼけた段ボール箱を出してきた。そこには、昔こはぜ屋で作っていたマラソン足袋が入っていた。そして、その裏底には「陸王」の名があった。これから開発するスポーツシューズの名はこれしかないと、宮沢は決めた。宮沢はじめ社員数名と埼玉中央銀行の坂本も加わって「陸王開発チーム」はいよいよスタートした。
地方零細企業に、果たしてランナーの足を守る裸足感覚を追求したランニングシューズが作れるのか・・・。資金難、ソールとアッパーの素材探し、世界的スポーツブランド・アトランティスの妨害と熾烈な競争・・・。彼らの前途にはクリアしなければならない課題が次々と現れた。

屑繭が原料の理想のソール素材「シルクレイ」に魅せられた宮沢は、その特許と製造機械を持つ飯山晴之を説得した。宮沢の「陸王」にかける情熱を知った飯山は、自分も開発チームに参加することを条件に承諾した。飯山が開発し、会社を倒産させる原因となった巨大な機械が運び込まれた。シルクレイの実用化に向けた飯山と大地の寝食を忘れた懸命の試行錯誤が始まった。だが、迷走を繰り返し中々満足できる結果が出ない・・・。疲れ果てた飯山の頭に、フト浮かんだ発想をきっかけに方向転換、作業を一から見直したことで一気に進展し、満足できるものが完成した。
シルクレイのサンプルを見せられ、その軽さと原材料がくず繭だだと知ったカリスマシューズマイスター 村野尊彦は、宮沢の心中を見抜き協力を申し出でた。
満足できるシルクレイが完成した喜びも束の間、恐れていた事態が発生した。無理をして使っていた機械が壊れ修理不能の状態になってしまったのだ。新しく作るには少なくとも1億円は必要だと判明、銀行はどこも相手にしてくれず途方にくれる宮沢に、東京キャピタルに転職した坂本が、フェ二ックス社長、御園丈治を引き合わせた。御園は、融資をお願いしたいという宮沢の希望を一蹴、当初の予定通り買収で譲らず交渉は決裂したかにみえた。だが、改めて御園から新たな提案があり、3年の期限で融資を受け期間内に返済できなければ傘下に入るということで合意が成立した。買収ではなく、宮沢が望む業務提携という事になったのだ。

京浜国際マラソン当日、集まった参加者総数は2万人。午前8時現在、気温8.5度、湿度37パーセント。雲一つない青空が広がっていた。宮沢たちは招待選手の控え室があるホテルのロビーに向かった。大混雑のロビーを横切り、勝ち誇った表情を浮かべたアトランティスの佐山が宮沢に向かって近づいて来た。アトランティスを辞めた村野に向かって皮肉を言い、宮沢には小馬鹿にしたような笑いを浮かべただけで人ごみの中に消えた。アトランティスの赤いRIIを履いた毛塚の勝利を確信している小原と佐山は、絶好の宣伝になるとほくそ笑んでいた。
ところが日本ランナーのトップでゴールに駆け込んで来たのは毛塚ではなく、濃紺に勝虫(*)をデザインした「陸王」を履いた茂木だった。
(*勝虫=トンボのこと、前にしか進まず退かないところから、不転退の精神を表すものとして、特に武士に喜ばれた)

アトランティスでは、その月だけでも、芝浦自動車の彦田はじめ7人の主要サポート選手が契約を打ち切る異常事態になっていた。かつてこれほどの離反が起きたことはなく、しかも乗り換えた相手は、あの「こはぜ屋」だった。村野がフィッティングする「陸王」は、いまやトップアスリート注目のシューズであり、今後「陸王」に乗り換えていくアスリートはさらに増えるだろうというのが大方の予想だった。

神妙な顔で社長室にやってた大地は「メトロ電業」の話を断ろうと思う」と言った。連敗続きだった就職活動だったが、飯山とのシルクレイ開発で自信をつけ成長した大地は、一流企業の内定をもらっていたのだ。宮沢は嬉しさを抑え「いや。お前はメトロ電業へ行け」と言い、「こはぜ屋に戻ることはいつでもできる。ウチでは得られない経験と知識を蓄積してくれ。世間を見て来い。そしてその大きさをオレたちに教えてくれ。・・・」と言った。うつむいて聞いていた大地は「分かった。だが、一旦出たからには戻るつもりで働かない。メトロ電業に失礼だから」といい、「いままでお世話になりました」と、深々と頭を下げて出て行った。



↑挿絵をお借りしました。





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Last updated  2016.08.26 05:28:50
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