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Headline News

2022.06.26
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カテゴリ:社会・政治・時事
 『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅳ』の「あとがき」に
 本著のことが記されていたことから興味を持ち、今回読んでみることに。
 しかし、本著を手にした途端、そのボリュームと価格に驚かされました。
 ハードカバー492頁、本体3,800円+税……ずっしりと、重たい……

   ***

  したがって、マスコミが報ずる盗作疑惑や、ネットで騒がれるパクリ疑惑のほとんどは、
  ある程度以上の分量を丸々写しているとか極端な場合以外、
  法廷で争われたとしても著作権侵害にはおそらく問われないだろう
  という推測が成り立つ。(p.16)

これは、「まえがき」の『「盗作」と「著作権侵害」』に記された一文。
『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅳ』でも、このことに触れていましたね。

  著作権法第32条の規定によれば「引用」するのに許可は要らない。
  つまり「引用」は無断で行使するのが本来である。
  したがって「無断引用」なる言葉はナンセンスだ。(中略)
  すなわち、「無断引用」という言葉もまた、著作権法とは独立した、
  マスコミ独自の専門用語、ジャーゴンなのだ。
  文芸批評や美術批評などにおける「引用」がそうであるように。(p.16)

これも、「まえがき」の『「無断引用」というジャーゴン』に記された一文で、
「盗作」「盗用」「無断引用」「借用」「無断借用」等が、これに該当する言葉。
著者は、「新聞や雑誌は、事件における『作家のモラル』の逸脱度を測る
自社の(恣意的な)基準に基づき、これらを使い分けている」としています。

  歴史的事実、日常的な事実を描く場合に、
  他者の先行著作物で記述された事実と内容において共通する事項を取り上げたとしても、
  その事実を、いわば基礎的な素材として、換骨奪胎して利用することは、
  ある程度広く許容されるものと解するのが妥当である。(p.227)

これは、第3章「オリジナルという”データ”」の
「『大地の子』裁判は山崎の全面勝訴」に記された2001年3月の判決文。
この点については、第4章「素材と創作のあいだ」の「『私残記』という書物」でも、
次のような記述が見られます。

  ここで森荘巳池の名を出さなかったことについて、
  網淵は、「単に正確な歴史的事実を跡づけるために参考にした資料名は、
  とくにこれを列挙する必要はない」という通念にしたがい、
  他にいくつもあった参考文献と同様、森名義の『私残記』も挙げなかったと説明している。
  歴史的事実は公共財と言う認識である。
  したがって、問題になるとしても「礼儀」や「エチケット」という次元の話であって、
  著作権法を盾に取り「無断借用」とか「モラル」を非難するのは筋違いもはなはだしい、
  というのが網淵の主張であった。
  妥当な見解といっていいだろう。(p.255)

歴史的事実、日常的な事実については、先行著作物から共通する事項を取り上げる際、
参考文献として挙げる必要はなく、著作権法には抵触しないという認識でしょう。
また、第6章「異メディア間における盗作疑惑」の
「山口玲子『女優貞奴』とNHK大河ドラマ『春の波涛』」には、次のように記されています。

  『春の波涛』事件、『江差追分』事件いずれも、
  盗用されたと訴えた原告の作品はノンフィクションだった。
  これまで見てきたノンフィクションからの盗用疑惑の数々同様、
  事実の書かれた資料として使ったつもりが、原作者の意識としては創作物だった、
  というすれ違いが問題の発生源となっているといっていいだろう。(p.343)

ノンフィクション作家からすると、そこに記されたのは単なる歴史的事実ではなく、
自己表現による創作物だから、「盗用」となるという認識でしょう。
これについては、同じく第6章「異メディア間における盗作疑惑」の
「NHK弁護団のウルトラC」に、次のように記されています。

  著作権法は、著作物の表現を保護するものであり、
  思想や感情、アイディアを保護するものではない。
  「表現形式」と「内容」というふうに区別されることが多いが、
  「表現形式」はさらに「外面的表現形式(外面形式)」と
  「内面的表現形式(内面形式)」に分割できるとされる。(p.359)

この後、著者は「外面的表現形式」を、小説なら文章、マンガなら絵、映画なら映像、
「内面的表現形式」を、ストーリーやプロット、人物の配置や個性の持たせ方など、
原作付きのマンガの原作部分みたいなものとしたうえで、
「複製」と「翻訳」を定義し、「翻訳権侵害」について述べていきます。

  さて「複製」と「翻訳」だが、この区分にしたがえば、
  「外面形式」が再現されていれば「複製」であり、
  「内面形式」が再現されていれば「翻訳」である、ということになる。
  したがって、翻訳権が侵害されているかどうかを判断するには、
  内面形式が再現されているか否かを検討すればよいということになるわけだが、
  翻訳権の侵害が正面切って争われたのはこの裁判がはじめてのことであり、
  いま見たように、裁判官さえ、内面形式が再現されているとはどういう事態であるか
  判断する基準を持たなかったのである。(p.360)

   ***

これまでに、こんなにもたくさんの盗作疑惑が発生していたことに、正直驚きました。
また、その中には大変有名な作品や作家さんたちが、相当数含まれていることも意外でした。
しかも、それらの事件の背景には、マスコミや文壇のドロドロとした部分が……
本著を通じ、盗作か否かの線引きには、とても難しいものがあるということが分かりました。

読書前は、本著の見た目の圧倒的存在感ゆえ、身構えるところもあったのですが、
読み始めてみると、法律に関わる部分や概念的記述が続く部分は苦労したものの、
全体としては読みやすい文章で、想像以上にスイスイと読み進めることが出来ました。
価格が手頃なら、もっと多くの人に読まれたかもしれないのにと、強く思いました。





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Last updated  2022.06.26 13:47:50
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