カテゴリ:読書のココロ(エッセイ・その他)
穂村さんはご結婚なさったらしい。 一昨年発売のエッセイ『もしもし、運命の人ですか。』 の中にも そんな一節が最後の方にちらりと覗いたりして驚いたのだけれども 何編もあるエッセイのうち、「奥様」が登場するのは ほんのひとつかふたつだけで、 ほかのものはいつも通り、 現実世界に馴染めない、おっかなびっくりのエッセイだったので 「んん?? この文中の『奥さん』っていうのは読者を驚かせるためのネタなのか?」 と、いまひとつネタか現実なのかの区別が付きかねたのだが 本作のなかには、『結婚して実家から出た』とはっきり書かれている。 毎日、晩ご飯のあと、司書でもある奥様とふたり、 近所の古書店を散歩がてら廻るという話(「引越しと結婚と古本屋」)は 微笑ましくてとてもよかった。 穂村さん、いいひとと結婚したなあ。 と、何だか私まで嬉しくなってしまった もちろん、今まで通りのテイストも顕在で 随所に潜む笑いどころに、むふふ、ぶふふ、とツボを刺激される。 特に面白かったのは 締め切りを過ぎた原稿を複数抱えたときの心境を綴った 「デッドライン」と 自分が買った本を、 後日、もっと安値で売っているのを発見してしまった時の心境を綴った 「古本と「差額」」。 * * * * * * * * * * * * * * * その数が2つまでは意識の中で持ちこたえられる。 右手に1つ、左手に1つ。 まずこれをやって、次にこっちをやればいいのだ。 3つになるとあっぷあっぷする。 これをやっても、まだあれとあれがある。 あわわ。一刻も早く片付けて、持ちこたえられる世界に戻らないと。 4つになると世界が溶け出して、 自分がなんとかできるという感覚が消えてしまう。 全体の優先順位などもわからなくなる。 すぐにチェックできる筈のゲラ1枚を前にじっと固まっている。 5つ以上はもう魔界。 逃げたくて逃げたくて眠くなる。 なんか、赤い舌みたいのがみえる。 ( 「デッドライン」より ) - - - - - - - (※ 欲しかった本を古書店で3万円で買って、 同じものが翌週1万6千円で売っているのを見つけ、 更に翌週、1万2千円で売っているのを近所の店で発見した時の思考 ) 10年前に5000円で買った本を今1000円でみつけても それほど悔しくはない。 10年前に買ったこと自体に意味があるからだ。 だが、5000円で買ったばかりの本がすぐ隣りの店で1000円、となると動揺する。 そして思わず手が伸びそうになる。 これを買えば2冊で5000円+1000円=6000円。 一冊あたり3000円で買えたことになって傷が浅くなる。 勿論そんなのは錯覚に過ぎない。 明らかに間違った計算。 だが、わかっていても、心が動くのだ。 ( 「古本と「差額」」より ) * * * * * * * * * * * * * * * どちらも私の思考回路とあまりにも酷似している。 というか、まるっきり同じことを、私も思う。 もしかして、思考回路的親戚なのか? 穂村氏と。 だとしたら、ちょっと嬉しい お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[読書のココロ(エッセイ・その他)] カテゴリの最新記事
|
|