ココロの森

【内容情報】（「BOOK」データベースより）

「ブス」通りすがりの男に言われて許せる？
マッチョかつ知性派、理想の男は今いずこ！
みんなご飯は「ヘツって」食べるでしょう？
レジもトイレも基本は一列並びの早い者順！
キスするときって、おめめパッチリなわけ？
普通に生活していても、感じることは無限大。
ぜんぶ言葉にしてみたら、こんな感じになりました。
注目の新人作家、エッセイ第１弾。



しをんちゃんのエッセイは読破したと思っていたのに
何故か最近まで藤紫市の図書館にはなかったこの一冊。

初エッセイだからかなー？
それとも初版は内容がまずかったのかなあ？

思うに、ネタが浮かばなくてお友達に書いてもらったっていう
あのBL（という言葉が当時はなかったらしく「女性向けホモ漫画」と書いてある！）
の考察がまずかったんじゃなかろうか？
だって天の・・・ぐえっほぐえっほ



で、これは
しをんちゃんがボイルドエッグスとエージェント契約して
処女作を発表するまでの間に、web上で連載されていたエッセイをまとめたもの。

大学を卒業する少し前から
処女作『格闘する者に◯』を出版する頃までの話。



そうか。しをんちゃんは卒業式は袴姿じゃなく

　桜の地紋の真っ黒な着物に赤い半襟、金糸の帯という素晴らしいいでたち

で

「極道の妻たち」「東映ヤクザのコスプレ」

とか言われちゃったワケねw

卒論が確か
「任侠映画における男性の同性愛云々」
だったそうだから、それを地でいったってことか




まだまだ素人っぽい文章に初々しさも感じつつ、
22の乙女とは思えぬ恥の捨てっぷりと
公の場で読むことを許さぬ不意打ちの破壊力はこの頃から顕在


オーストラリア人で茶道をたしなむ
勉強熱心なマーチンくんに
お茶屋さんと喫茶店の違いを訊ねられ
お茶屋さんではグリーンティ、喫茶店では珈琲がでる、
と説明するしをんちゃん。

いいのか、それで？　と思っていると
今度はマーチンに「クズキリとはなんですか」と訊ねられる。


　　*　　　　*　　　*

　友人は「ひもみたいなゼリー」と答えている。
　それは違うだろう。
　「透明なうどんだよ」と私。
　「それが甘いのよ」ともう一人の友人。
　マーチンは「それまずそう」と眉をしかめて今度は
　「ミツマメとはなんですか」
　と聞いてきた。
　「マメが入ってる」と友人。そりゃあ不親切すぎるだろう。
　「透明な豆腐が入ってる」と私。
　「それに甘い汁をかけるのよ」ともうひとりの友人。
　マーチンはほとんど泣きそうな顔で
　「ではアンミツとはなんですか」と声を震わせた。
　「ミツマメにあんこが付いている」と友人。
　もうマーチンは諦めたらしく「アンコ好きです」とアンミツを頼んだ


　　　　　　　　　　　　　　　（　本書「言葉の探偵」より抜粋　）

　*　　　　*　　　　*




更にこの後、神社に行って狛狐が口にくわえているものを訊ねられ

　「トイレットペーパーとボール」

などととんでもない返答をし、マーチンから嘘だと指摘を受けている。

マーチンが日本嫌いにならぬよう祈るばかりだ。




名前の由来の話も面白かった

「しをん」という珍しい名は花の名前（紫苑）からとった、というのは
以前何処かで読んだことがあったのだけれど、
更に裏の由来があったらしい


　*　　　*　　　*


実はこの名前は、石川淳の『紫苑物語』からとったものだったらしい。
バッサバッサと人を殺して、
その血が染み込んだところから紫苑がはえました、という話。
なんて殺伐としてるんだ。
しかも紫苑の別名は「鬼の醜草（しこぐさ）」というのだ


　*　　　*　　　*


これを読み、しをんちゃんに同情せずにはいられなかった
「鬼の醜草（しこぐさ）」って、別名も酷いが
カワイイ娘の名前を石川淳の小説からつけることはなかろう。

　　　




いや、私は好きですよ、石川淳。
確か絲山秋子さんが敬愛していて、それで私も読んでみたのだけれど
あの暗雲立ちこめるような何とも言えない世界には引き込まれた。
私の苦手とする暴力を題材にした話が多いにも関わらず、強烈な吸引力があり
全集を全部読んでしまったほどだ。

だけど、愛娘にちなんで名付けたいような話は
はっきりいってひとつもなかった。


「変わった名前を付けておいて真っすぐ育って欲しいもなにもない」

と、しをんちゃんはおかんむりだったけれど
同じく変わった名前を付けられたものとして
激しく、激しく同意したい。


世の親御さんたちに向けた
「名付けの心得三箇条」にも同意だわ。





まだまだ作家として立ち上がってもいない、
ハイハイ歩きの頃のしをんちゃんが垣間見れる貴重な一冊。

　講◯社（←入社試験で落とされた）から原稿依頼が来るほど
　ビッグな作家になれるはずはない

なんて書いていた彼女が
この後、直木賞を取り、現在に至るような有名作家になるのだから
この才能を見出したボイルドエッグスの代表者は
やっぱりすごい。