☆ さ す ら い 人 の 歌 ☆
いつも仕事に熱中し体を動かした。
働くことが人生であり体を酷使してボロボロになるまで
働いて死んでいくことが自分の人生だと思っている。
今年40歳になる土村繁男には35歳の妻と3人の子供が
いるが2年前にある事情から協議離婚したのだった。
繁男は今、妻と別れる前に自分だけのために
借りたアパートで一人暮らしの生活である。
6畳の色褪せた畳の部屋が二つ・4畳半の台所・
風呂とトイレがあって1ヶ月5万円の家賃である。
部屋には、洋服タンス・冷蔵庫・電子レンジ・トースター・
食事用の折りたたみ机・カラーテレビ・布団・座布団ぐらいで
これといって取り上げるような豪華な家財もなく、質素で
平凡な生活をしているのであった。
中学を卒業して働き出してから35年になっても自己の
生活環境が上昇することはなく常に慎ましやかな
小さな暮らしの中にいた。
中学校を卒業してから職業は何度変わっただろうか・・・
数えられないほどいくつもの職業を転々とし、思えば
さすらいの人生だったといえる。
転職した数も人一倍多いが、仕事では誰にも負けなかったと
思っている。
運送会社の長距離トラックの運転手・清掃会社の清掃員・
警備会社の夜間警備員・道路工事員・塗装工・土建業など
いろんな仕事を経験した。
どれもこれも仕事に上と下があるなら下の仕事に従事した。
いわば肉体でもって労働し、汗をかき報酬をもらう仕事ばかり
であったといえる。
仕事上の知識はさほどなくとも体をもって誰よりも働いた。
170センチの身長と体重60キロの肉体は、
働くだけの機械のようになってしまっていた。
今まで机に座って働いたことは一度もない。
能力がないことは、自分でよくわかっていた。
デスクワークは最初から自分に向かない。
学歴もなく字はきたない、学力もなく性格的にも
不適であるので不可能な仕事だと思っている。
俺は、働くロボットようになってしまったこの体だけが
どんな労苦にも耐えうる半永久的な頑強な機械だ””
誰にも負けやしない鍛えられた鋼鉄のような肉体がある””
痩せ気味であっても筋肉がもりあがり、上半身が
ガッチリとしていることを喜びとしていた。
繁男は、いつもそう思う時にうすうすと働くことへの
自信が心の中に湧いてくるのを感じていた。
どこにいても仕事を真っ先考え一途に働いた人生だった。
親父もお袋も亡くしているし、気ままな一人の暮らしである。
自分の体は、誰よりも健康で何の不自由もなく働く事に
没頭できるから幸せではないかと思っている。
今のビル解体業の仕事に就いて8年になるが、これといって
病気をするでなく怪我をするでなく元気で働いてきた。
煙草も吸うし酒ものむし、年齢的にもそろそろどこかに
ガタがきているのは、自分でもわかっていた。
あまりにも酷使してきた体であるから健康診断を受けたら
どこかに病気という悪魔が忍び込んでいるかも知れない。
そんなことを思いながらも健康診断は、この8年間に
一度として受けたことはなかった。
そんなことは蚊帳の外において繁男は働く必要があった。
朝5:30に目を覚ますと自分が持って行く昼の弁当を作り、
7:00前に120ccの黒いバイクで仕事場に行くのであった。
途中でいつもコンビニに立ち寄りサケと昆布とたらこの
おにぎり2個、そして147円のお茶のペットボトルを買うのが
朝食の定番コースとなっていた。
まだ誰も出勤していない仕事場の小部屋で
一人で食事をするのがくせになっていた。
こんな食事をしているのが情けなくって時として
ふっと別れた妻のことを思い出すことがあった。
5歳の貴美・3歳の美知・2歳の勝樹のことを思うと
俺は75歳まで働かなければならないのだ””
妻だった由美子と子供のためにも働かなければならない。
その年齢までは働かないと俺は死ぬわけにはいかぬ””
働いて働いて粉骨砕身、仕事に没頭して生活して
いかねばならない、それが妻子に対する元、夫として
そして父親だった男の責務だと思う。
毎月給料をもらうと離婚した妻子のために生活費として
20万円を由美子の銀行口座に送金している繁男だった。
朝めしのおにぎり食べお茶を飲む時には、由美子と
3人子供のことが脳裏に浮かんでくる。
今日も頑張って己れに与えられた仕事をきちんとやろう。
窓の外の秋景色を見ながらいつもそう思っている。
由美子とは居酒屋で知りあった飲み友達で繁男とは
6年前の4月に結婚した。繁男34歳・由美子29歳の時だ。
男なんてひょんな勢いで結婚できるものだなあ~と
繁男はその頃の由美子との交際を思い出すことがあった。
「なんであんな男と結婚するん”” 」由美子の一人友達
である大田光江はある日、結婚前の由美子に問うた。
光江は、高校時代の友達で一緒のスナックで働いていた。
光江は、繁男のことは由美子よりもよく知っているし、
ある程度の人物評価も持ち合わせている女性であった。
しかし由美子は、お腹の中にすでに一つの命を
授かっていた。
ハイストップ!!
自分の体力と気力だけでもって仕事をしてきた男の人生は、
これからどうなるのでしょう?
75歳まで働く希望は果たして?
健康診断診断も受けずに肉体労働をもって働いている
さすらいの男の人生。
今後のストーリーは、あなたにお任せします。
どうかよろしくお願いしますね <(_ _)>