テーマ:特撮について喋ろう♪(4703)
カテゴリ:短編・詩・短歌など
その駅のホームから見える夕焼けは、いつもきれいだった。電車から吐き出された会社員やOLが、時折ちらりとそれを見上げる。いつか見た覚えがある、彼等の顔にそんな影がよぎる。つられて私も見上げてしまう。暮れなずむ赤い空の中に、私は銀色の巨人の幻影を見た・・ 子供の頃は、沢山のヒーローがいてくれた。遠い星から来たり、太古の命が目覚めたり・・彼等は私達を守ってくれた。人類の英知を結集した武器があっても、最後に勝利の地に立ち尽くすのは彼等だった。強くやさしい心を持ったヒーロー達。けれども時には守るべき私達人類からうけた仕打ちに、彼等が涙した事に気がついたのは、ずっと大人になってからだった。 大人になると少女達は、少年達の中に等身大のヒーローを見出し、彼等の事を忘れてしまう。けれども何かの拍子に思い出すのだ。緑の血を流して、私達を守ってくれた者の事を。 空に響きわたる叫び声を聞いた。まるで泣いている怪獣の様な。何かの物音が木霊して、そう聞こえたのかもしれない。帰宅間際の買い物に賑わうデパートその向こうに、哀しげな大きな影が見え隠れする気がする。 エスカレータを登りつめたその奥に、彼等を愛してやまない人がその姿を描きとめた絵が並んでいた。彼等の名前を叫ぶ甲高い子供の声と一緒に、私も彼等の名前を胸の中で繰り返す。懐かしい呪文の様に・・ 私は思い出す。空想も科学もこの世界の不思議も、何の違和感もなく溶け合っていた頃の事を。あの頃からとても遠く、遠くまで来てしまった私に、彼等は絵の中から限りなくやさしい目を向けている。私の胸にそのまなざしが、ことんと落ちる。その音に思い出から目が覚めた。そして気がついた。彼等の守ってくれたのは、私の心の世界だったのだ。その心を持って、ここに立っている私。私は少しあらたまって、光の国から来た人に挨拶する。 ありがとう・・そして、さよなら。大人になった私の声は、子供達と同じにはあなたの名前を呼べなくなってしまった。けれども、声に出さずとも、あなたに届けたい思いがある。さよなら、私の愛したヒーロー達。私の手はあなたたちよりずっと小さいけれど、この手でひろえるだけの平和はひろっていきたいのです。どうか、そのあなたたちの長い命で見守っていて下さい。かつてあなたたちにあこがれて胸を躍らせた、私達の未来を。 彼等に背を向けて歩きだしたのに、私の背中にはやさしいまなざしがある。私の脳裏には、何度も頷いてくれる彼等の面影と、私の行く末を真っ直ぐに差してくれる銀色の指先があった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「ウルトラマン」40周年に寄せて 私の愛した銀色の巨人に捧ぐ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006/07/19 03:43:16 AM
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