貴方の仮面を身に着けて

どこへ行ってもチョコレートのお祭りだ。ここまで大騒ぎになるとは。どこの会社も必死に声を上げる。試食も積極的に出して来る。美味いチョコレートが増えたと思う。その分お客の商品への選別の基準も厳しくなっただろう。単なる名前だけでは駄目なのだ。

差し出されたひとかけらのチョコを口に入れた。カカオの酸味が強い味・・「ジュヴォー」だ。そこのカフェのアールグレーの香りのショコラは濃厚だけれど、温かいミルクが添えられており、好みのままに調節出来るのだ。

ジュヴォーは井村屋、アンリ・ルルーはヨックモック、ノイハウスは東京風月堂、ダロワイヨは不二家・・それぞれに日本のメーカーが後ろにいる訳だが。海の向こうのカカオの香りとショコラティエの技の生み出す美味を伝えてくれるなら、それで良い。

昔、大通りから少し入った所に小さな手作りチョコレートの店があった。「とろーにゃ」と言ったと思う。フランスのお菓子作りの巨匠の名前にあやかった店名だったらしい。その頃は一粒ずつ宝石の様に売られているチョコレートは珍しかった。いつの間にか消えてしまった。当時はそういう贅沢なチョコレートは日本では浸透していなかったのだろう。ゴディバも確かまだ帝国ホテル位でしか買えず、ふわふわの詰め物をしたビロード張りの箱に入ったチョコレートを貰うとうれしかったものだ。

とりとめのない・・チョコレートの話になってしまった。毎年、バレンタインに誰かにあげる物より、自分で食べたい物を沢山買っている気がする。今年もそうなりそうだ。

別にチョコレートがなくても、甘い夢ならいつでも見られるけれど・・自分の夢を齧りながら私は物を書いている。もしも私の文章を舐めてみたら、かなり甘いと密かに思う。





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