カテゴリ:金銀花は夜に咲く(完結)
「来るとは思ってませんでしたよ」 にやにやと笑う、タキシード姿の男の赤い髪は、天に向かい燃える炎の様だった。 「『火消し』の言いなりの、臆病なお仲間達がね」 ”盾”の黒い戦闘服を着た朱雀は、静かに愛刀を構えた。 「私は過去を斬りに来たのだ」 この灰色の空間は、異界との間(はざま)、『奴等』の領域だった。和樹の導きで、ここまで鞍人(くらうど)を追って来たのだ。 (お父さん・・) 和樹は少し離れて、朱雀の緊張した背中を見ていた。戦いには手を出さぬ様に、和樹は朱雀に厳重に言われていた。和樹の”銀の身体”が限界に近い事を、朱雀は知っていた。それでも和樹は、朱雀が危険であれば戦うつもりだった。どうせ長くない命であれば、少しでも誰かの役に立って死にたいと和樹は思っていた。 朱雀の身体が宙を飛んだ。刃の触れ合う音がした。鞍人の手にも、細い剣が握られていた。火花が散るほどに激しく、幾度も剣がぶつかり合った。 「今日は遊びがありませんね」 朱雀は黙っていた。鞍人は大きく跳び退った。 「もっと楽しめると思ったのに、当てが外れてしまいましたよ」 朱雀は刀を構えなおし低くつぶやいた。 「お前も死に場所が欲しいだろう」 鞍人は目を見開いた。赤い光が目に燃えた。そして笑い始めた。 「それは、アナタもではありませんか?」 「ああ、そうだ」 朱雀はあっさりと認めた。 「だが、ここで死ぬつもりはない」 風が吹いた。朱雀は猛烈な勢いで、鞍人に斬りかかった。鞍人はそれを受け止めた。じりじりと刃で押し合いながら、朱雀は言った。 「死ぬ時は美女の膝枕で、と決めているのだ。ここは女っ気がないからな」 鞍人から大きな力が湧き上がり、朱雀は後ろに吹き飛ばされ、灰色の壁に激突した。鞍人はゆらりと宙に浮き上がった。 「灰色の床で我慢してもらいましょうかね。死んだらどこでも同じですよ」 朱雀もゆっくりと起き上がった。朱雀は、口元の血を手の甲で拭いながら、にやりと笑った。 「キミには、美学と言う物がないのかね」 鞍人もうれしそうに笑った。 「少しは調子が出て来た様ですね。さあ、お楽しみはこれからだ」 鞍人の姿が空中でぼやけはじめた。異様な気配が、鞍人を中心に広がって行く。 「離れろ!和樹!」 朱雀が叫んだ。和樹は背後に気配を感じた。 「お前の相手は俺がしてやるよ、感謝しな」 建角(たけつぬ)が、黒い顔に一際目立つ白い歯を剥き出して笑っていた。 「お前こそ感謝せよ、私が相手をしてやるのだから」 建角が慌てて振り返ると、そこには白き美影が立っていた。純白の髪がさらさらと肩にかかり、穏やかな白い顔に、うっすらと微笑が色を添えていた。建角はその美しさに、一瞬あっけに取られて魅入ってしまった。建角の視界が白くなった。風が白き者のマントをなびかせ、建角の視界を遮ったのだ。和樹は素早く、翻る白いマントの後ろに身を隠した。 建角は吼えた。 「お前は弟だな!」 三峰はうなずいた。 「そうだ。お前如きに、兄の手をわずらわせる必要もないからな」 「見くびるな!」 建角の全身から湧き上がった、無数の黒い羽根が、三峰に襲い掛かった。三峰はマントをふるい、和樹を片腕で抱きかかえて跳んだ。 (続く) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 『金銀花(すいかずら)は夜に咲く』主な登場人物 『火消し』シリーズの主な登場人物 『火消し』シリーズの世界の解説 掲載された小説等はこちらでまとめてご覧になれます ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007/11/13 03:12:43 AM
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