カテゴリ:金銀花は夜に咲く(完結)
着地すると、三峰は和樹にささやいた。 「サギリ様がお戻りになられました」 「サギリさんが?」 「ええ、ここまで運んで下さいました。和樹様の築いた道をたどって」 三峰は微笑んだ。 「さっさとすませて、朱雀と帰りましょう」 「そうだね、みんなが待っている」 建角が迫って来た。三峰は身構えた。 「下がっていて下さい!」 和樹は三峰から離れ、銀の身体の力で自分の周囲に保護膜を作った。余程の『奴等』か異人でない限り、和樹に触れる事は出来なくなった。 (無理はしないでね、その場所を維持していて) 和樹の心に懐かしい声が響いた。 (サギリさん、お帰りなさい) (挨拶は後でいいわ) (そうですね、今は・・でも『火消し』の仲間は、手を貸さないはずでは) 笑い声が和樹の心に木霊した。 (いくら神内でも、私がお友達にしてやる事までは口をだせないわ) (お父さんは良い友達が多いですね。特に美人に) (そういう言い方は、朱雀ゆずりね) (お父さんに言わせると、僕は悪い所ばかり似たそうですから) 再び笑い声が、和樹の中で木霊して消えた。 建角は逃げ回りながらわめいた。 「お前、強いじゃないか」 三峰は風に乗って建角を追った。 「貴方も強くなったのではありませんか?最初にお会いした時よりも、言葉使いが乱暴で、動作も粗野になっていますね。それは更に”心を奪われた”証拠だ。まもなく悪鬼になるのでは・・」 「うるさい!」 建角は立ち止まると叫んだ。 「黒土(くろつち)、行け!」 地面から、むくむくと無数の泥人形の如き物が湧き上がり、三峰を取り囲んだ。泥人形は一斉に三峰に襲い掛かった。三峰の白い姿が泥流に飲み込まれた。 「三峰さん!」 和樹は思わず叫んだ。 三峰を覆い隠した泥が四方に飛び散った。宙に舞い上がった三峰の白き姿は、一片の汚れもなかった。和樹は胸を撫で下ろした。風が吹いた。砂塵を避け、建角(たけつぬ)は顔を片腕で覆った。次の瞬間、建角は手首を後ろに捻り上げられた。三峰の愛刀冴枝丸(さえだまる)が、建角の喉元に押し当てられていた。 「貴方の勝ちはありません」 建角は引きつった顔で叫んだ。 「馬鹿にするな!」 建角は白目を剥き天を仰いだ。異様な気配が建角から膨れ上がった。三峰は咄嗟に建角を離し飛び退った。建角は吼えた。もはやそれは人間の声ではなかった。剥き出した歯は牙になり、折り曲げた指先は鉤爪に変わっていた。裂けた口の端から涎を流し喉を鳴らす姿に、和樹はぞっとした。三峰は穏やかな態度を崩さなかった。 「とうとう、人である事をやめてしまったのですね。私とは違う意味で」 悪鬼と化した建角は前屈みになると、恐ろしい勢いで三峰に突進して行った。その動作は獣のそれであった。三峰は刀を正眼に構え静かに立っていた。閃光がひらめき、それは一瞬で終わった。胴体の中程から一刀両断にされた建角の身体が、どさっと床に落ちた。和樹は思わず目をつぶった。三峰はふわりと優雅に飛び、和樹の傍らに降り立った。 「後はあちらの方次第ですね」 三峰の視線の先、灰色の霧の渦巻く彼方に、激しく刃を交わす二つの影があった。 (続く) 『金銀花(すいかずら)は夜に咲く』主な登場人物 『火消し』シリーズの主な登場人物 『火消し』シリーズの世界の解説 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007/11/14 02:55:42 AM
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