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貴方の仮面を身に着けて

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2010/10/20
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ダイヤ

「いつもと反対だな」
千条はわざと陽気に言った。

”盾”の息のかかった病院である。厳重な警戒下であっても、誰も千条の出入りを妨げる者はいなかった。千条は竹生達に準じる扱いを受けていた。”盾”達は知っていた、千条が竹生達と同じ者になった事を。包帯だらけで横たわる鍬見は、苦しげに息をしながらも、片目まで包帯に覆われた顔で、口元だけ笑ってみせた。
「たまには・・いいだろ・・・」

鍬見が口を聞いたので、千条は少し安心した。
「お前には散々世話になったからな、俺は」
「でも、お前は・・・」
「ん?」
「いや、いい・・俺が、弱いだけだ・・だから・・」
千条は励ます様に言った。
「お前は、弱くなどない」
鍬見は枕の上で、微かに首を左右に振った。
「強ければ・・こんな無様な姿を、晒さない・・」
「俺の方がもっと酷かったぞ」
「それは、相手が・・・」
かつて百合枝を守る為に、千条は最強の”異人”鞍人(くらうど)と戦い、片足を損なう瀕死の重傷を負った。その為に盾ではいられなくなったのだ。五体満足でない者は”盾”でなくなる。それが掟だった。そして竹生の血によって”人でない”者として生き長らえた。不具の身となった百合枝に一生仕える為に。

「詩織様は、竹生様のお屋敷に保護されている」
鍬見は黙っていた。
「お前は、詩織様を・・」
「・・言うな」
「そうか」
「・・ああ」
「そんな所まで俺と一緒か?付き合いが良すぎるぞ」
鍬見は寂しげに微笑んだ。千条も鍬見も、かなわぬ相手と知りつつ、愛する事を止められなかった。

「お前みたいに、強かったら・・な」
「お前は弱くない、それにな、俺とお前は決定的に違う事がある」
「違う・・事?」
「俺は百合枝様をお守りする事が出来なかった。だが、お前は詩織様を守り切った」
千条は暗く笑った。
「俺はお前が羨ましいよ」

しばしの沈黙の後、鍬見がぽつりと言った。
「どういう・・気持ちなんだ?」
「何がだ?」
「百合枝様のお側に、ずっと・・償い?辛くはないか?百合枝様は・・」
千条はふっと笑った。
「俺は、朱雀様を尊敬している。お前だってそうだろう?」
「ああ」
「朱雀様と俺は、百合枝様の幸せを願っている・・回りくどいな、いいんだよ。痛みはあるさ、だがな・・俺は、百合枝様の笑顔を見る事が出来れば、それでいい。多くを望めば苦しい、だからいいんだ、それで」
「多くを望めば・・か」

鍬見は目を閉じた。久しぶりに人と話して、疲れを感じていた。
「幸彦様は、詩織様を幸せにして下さるだろうか」
「真彦様の事が気になるか?」
「詩織様を嫌っておられる」
「父親を取られると思ったのかもな」
「・・かな」

千条は窓の外を見た。
「俺には、親子の気持ちは分からん」
「・・俺もだ」
幼くして親をなくした二人は、寂しく笑った。


(つづく)





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Last updated  2010/10/21 03:38:40 AM
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