262000 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

貴方の仮面を身に着けて

貴方の仮面を身に着けて

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X
2010/10/22
XML
ダイヤ

千条は言った。
「朱雀様からお聞きした。村は酷い有様だったそうだ」
「もう、俺達の知っている故郷はないのだな」
「俺は人である事を捨てた。その時から故郷はないがな」
「俺だって”外”へ出たのだ、だから・・」
「無理をするな」
「無理?」
「逢いたくないのか?」
「・・・誰に聞いた?」
「誰にも」
「誰にも?」
「そういう噂はあった、お前の父親が誰か。寮にいた頃だ、お前は知らないだろうが」
「そうだったのか」
「妙な噂を流した奴は、鹿沼と俺で締め上げたからな」
千条はにやりとしてみせた。
「それきり、噂は消えた」
太い声がした。
「そんな事があったな」
鹿沼だった。鹿沼のいかつい身体が戸口に立っていた。

三人が顔を揃えるのは久しぶりだった。これは神の恩恵だと、鍬見は思った。
(今ここでなら、言える)
鍬見は、三人しか残っていないと嘆いた仲間が、また一人減る事を、彼等に伝えたいと思った。彼等に伝えねばと思った。鍬見は静かに言った。
「俺は・・毒に侵されている。もう長くない」
「馬鹿を言うな」
千条が驚いてたしなめた。鹿沼は黙して鍬見を見ていた。
「俺は医者だ、その位わからなくてどうする」
「毒なら、百合枝様が・・」
「・・俺の様な一介の盾に、そんな事は許されない。俺の盾としての席次は低い。俺が倒れても、代わりはいる」
「お前には、まだやる事があるだろう。お前の部下の事も考えろ」
「金谷も久井も、立派に一人前だ」
「まだ、お前が必要だ」
「・・俺は、最低の盾だ。村を守る為に戦って、死ぬのではないのだからな」

黙って聞いていた鹿沼が、遂に口を開いた。
「千条と俺は、お前が立派な盾である事を知っている」
今度は鍬見と千条が驚く番だった。
「俺の立場を気遣ってくれた事には礼を言う。だがお前は大馬鹿者だ。俺が知っていれば、お前はそこまでやられずにすんだかも知れんぞ。お前は俺に、友を救う機会を与えなかった。俺は怒っている、解るか?怒っている」
これほど長く鹿沼が一気に話すのを、長い付き合いの二人でも聞いた覚えがなかった。

鹿沼の気持ちに、鍬見は胸が熱くなった。
「・・お前に、規則違反の・・片棒を担がせるわけには・・」
鹿沼は大声で言い放った。
「だから馬鹿なんだ、友を思う気持ちに理由などいるか。お前も言っただろう?もう俺達しかいないんだ、あの十の歳に見習いになった仲間は」
「鹿沼・・」
「二度と隠すな。俺に言え、俺に頼め」
「お前・・」
「千条は百合枝様をお守りせねばならん。だから俺に頼め」
鍬見は感謝の念と共に、鹿沼へ死に行く自分の最期の気掛かりを託した。
「詩織様を・・頼む。お守りしてくれ」
鹿沼は大きく頷いた。
「承知した」

(つづく)





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2010/10/23 04:34:36 AM
[白木蓮は闇に揺れ(完結)] カテゴリの最新記事


PR

Profile

menesia

menesia

Recent Posts

Category

Archives

2024/11
2024/10
2024/09
2024/08
2024/07

Comments

龍5777@ Re:白衣の盾・叫ぶ瞳(3)(03/24) おはようございます。 「この歳で 色香に…
menesia@ Re[1]:白衣の盾・叫ぶ瞳(1)(03/20) 風とケーナさん コメントありがとうござい…
menesia@ Re[1]:まとめサイト更新のお知らせ(03/13) 龍5777さん 「戯れに折りし一枝の沈丁の香…
龍5777@ Re:まとめサイト更新のお知らせ(03/13) おはようございます。「春一番 風に耐え…
menesia@ Re[1]:まとめサイト更新のお知らせ(03/13) 龍5777さん 「花冷えの夜穏やかに深まりて…

Favorite Blog

コンドルの系譜 第… 風とケーナさん

織田群雄伝・別館 ブルータス・平井さん
ころころ通信 パンダなめくじさん
なまけいぬの、お茶… なまけいぬさん
俳ジャッ句      耀梨(ようり)さん

© Rakuten Group, Inc.
X