Viva l'opera !ピンチをチャンスに!オペラ再始動、藤原歌劇団「カルメン」
オペラが、舞台に帰ってきました。 映画館のスクリーンではない、本当の舞台に。 藤原歌劇団「カルメン」。少なくともオペラの大きな公演は、ほぼ半年ぶりです。会場で会った音楽仲間たちの大半は、最後のオペラが2月の「椿姫」(東京芸術劇場、二期会がほぼ同時にやりました)以来、だと言っていました。私もそうです。遠い昔の出来事のようですが。。。 本当にできるのか?そう思っていた人は少なくなかったはずです。室内オペラのような作品ならともかく、「カルメン」といえば合唱も多用する、いわばグランドオペラですから。 けれど、できました。し、成功だったと思います。これから順次公演を再開しようとしている他のカンパニーや劇場にとっても、大きな収穫となったことは間違いありません。 演出は岩田達宗さん。音楽をよく読み込んだ、丁寧で躍動的な演出で、売れっ子演出家のお一人です。 このプロダクションは、いわゆる「新制作」ではありません。以前のものですが、当然ながら大きな改訂を迫られましたので、新制作と言ってもいいくらいではないでしょうか。何しろ、オーケストラや歌手を配置する場所がまるで違うのですから。 オペラをやる場合、今の状況下で大きな問題は「密」になるオーケストラピットです。ですのでオーケストラは舞台上。合唱はその後方に高い台を作ってそこに置きます。ソリストはオケの前。大道具はおそらく飛沫対策も兼ねた四枚のアクリル?製の可動式のパネルで、これを歌手たちが動かして場面を暗示します。 歌手は、ソリストも合唱も全員がフェイスシールド。指揮者もフェイスシールド。オーケストラ(昭和音楽大学の学生からなるテアトロ・ジーリオ・ショウワオーケストラ)はマスク着用です。 この配置だと、オケの後ろにいる合唱はともかく、ソリストはどうやって指揮者を見るのかが気になりますが、演出の岩田さんに伺ったところでは、感染症対策でお客さんを入れない最前の2列にモニターを置いているそう。それにしても、ソリストには相当な負担だっただろうと思います。 演技自体も、ラブシーンであっても抱き合うことはできず、カーテンコールも手を繋いだりできません。ほんとに、「今」の事態というのを、絶えず思い知らされ続けました。 それ以外にも、各幕の間に休憩をとったり、上演中も一部のドアを開けたりして換気に努める、飲み物の販売は戸外で、それもノンアルコールのみなど、細心の注意が払われていました。もちろん座席は1席空けてのソーシャルディスタンス配席です。聴衆は氏名住所を記入して預けます。 それでも、とにかく公演ができた。それも、一定の水準でできた、ということが、大きな前進であり、オペラ、音楽界にとっての収穫であることは間違いありません。 「日々、何かが起こり、変更を迫られるので、毎日『ダモクレスの剣』の下にいるようでした」(岩田さん) そうだったのだろう、と思います。そして幕が開いても、3日間の公演を完徹し、そしておそらく、クラスターの有無が解るまでの二週間なりの間も、緊張感は続く。前代未聞のことです。 そんな中で、公演を完遂したキャストとスタッフの皆さまに、心からの敬意を捧げたいと思います。私たち音楽ファンが、どれほど励まされたかわかりません。皆さまにとっても、大きな自信となったのではないでしょうか。 フェイスシールドの弊害?は、正直ほとんど気になりませんでした。よく響く低音と黒ダイヤのような艶のある声、日本人離れした大きな目鼻立ちも相まって、一際個性的なカルメンを造形した桜井万祐子さん、スケール豊かな美声と膨らみのある美しいレガートで抜群の存在感を発揮したミカエラ役の伊藤晴さん、甘く若々しく一途なドン・ホセを好演した藤田卓也さん、色気があり、爽快なほどよく響く豊かな美声で「ちょい悪」の雰囲気抜群のエスカミーリョを歌い上げた井出壮志朗さんなど、ソリストの持ち味は十分に発揮されていたと思います。 鈴木恵理奈さんの指揮の好サポートも印象に残りました。藤原歌劇団の合唱団による合唱も表現豊かで高水準(児童合唱はカット)。所々にフラメンコが入り、華を添えていました。 今できるところで、今できることをやるしかない。それが成功すれば、周囲にも力を与えられる。 BCJの「マタイ」に続いて、そんな思いを新たにした、今回の「カルメン」でした。 「カルメン」の情報はこちら。公演はあと今日明日の2回。当日券も出るようです。 藤原歌劇団「カルメン」