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カテゴリ:茶木の音楽紀行
それからしばらく僕たちは柴田のメキシコでの体験談を聞いたり、日本人の悪い癖に
ついて話して笑い合っていたが、突然彼女は僕たちの四人席の方に来て向かいに座り 、「ねえチョコレートどこよ?」と言った。 柴田は荷物からチョコレートの箱を出して彼女に手渡して、「これはメキシコのだよ !」と言ったが、彼女はそれを食べても何も感想は言わなかった。 そしてまた窓の外に目をやって黙りこんだ。 それでもずっと男二人で旅をして来て、彼女が僕たちの前に座ってくれただけでとて も華やかで癒やされたような気分がした。 「ねえ何処まで行くの?」と僕は尋ねてみた。 少し間があってから窓の外を見たまま「宝塚のお姉さんの所」とぶっきらぼうに彼女 は答えた。 「宝塚!兵庫県の?偶然だなあ、僕たちもそれぞれ京都と神戸まで帰るんだ!」と興 奮して言ったが、彼女は黙ったまま相変わらず真っ暗な窓の外を眺めていた。 僕たちはそれ以上質問するのをやめたが、想像するにおそらく彼女は家出して来たの だろう。 そして一人暮らしするお姉さんを頼って関西まで旅するのだが、お金がないので各駅 停車の旅なのだろう。 各駅停車で旅する者には其々の深い理由がある。 「さー次の駅で乗り換えるぞ!」と柴田が言って電車が止まると荷物を持って降り、 彼女と僕もそれについて降りた。 そこはなんと言う駅で何県かさっぱり分からなかったが、しばらく待つと別の電車が 来てそれに乗り込んでまた四人席に向かい合って座った。 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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