大阪CA声楽コンセルヴァトワール

「いやー、初めて会った君たちに長々と変な話をしてしまったな！でも戦地から帰っ
て来て初めて自分が他人に受け入れてもらえたような気がしたよ。
生きてさえいればいろんな事が起こる。
ところで君たちは昔からの友達なのか？」と彼は尋ね、僕たちは顔を見合わせた。
「僕と柴田は一昨日韓国で知り合い、プー子とは昨日列車の中で知り会いました。」
と僕が答えると、「何だって！」と彼は驚き、続いてプー子が「え！なんだそうなの
？」と言った。
「この２・３日の間に不思議に出会ってしまった４人と言う訳です」と柴田がにこに
こして無精髭を指でひっぱりながら言った。
「プー子はこれからどうするんだ？」と突然おじいさんは尋ねた。
「兵庫県にいるお姉さんの所に行くの、私、家出して来たの」と少し間を置いてから
小さな声で答えた。
「やっぱり！」と僕は思った。
「そうだな！君ぐらいの年の頃に一度親の手から離れてみるのもいいかもしれないな
。」とおじいさんは元教師とは思えないような寛大な発言をした。
「お姉さんの所で何か働くにしろ、すぐにお父さんお母さんの所に引き返すにしろ、
プー子にとってこの旅行で何かしら掴めるといいね！」と彼は静かに言った。
「もう、一つ掴んだわ」と言って彼女はきっぱりとした目で微笑んだ。
「プー子はしっかりした子だ！」と言っておじいさんはそれ以上何も言わなかった。
「さて、次の駅で乗り換えるよ」と言っておじいさんは僕たちの顔をじっと見た。
「楽しかったです」と柴田が言い、「また何処かでひょっこり会いましょう！」と僕
が言った。
「ああ！」と答えて、彼は最後にプー子の顔を見た。
プー子は何も言わなかった。
おじいさんは義足をがちゃがちゃいわせて立ち上がりドアの方に行き、僕たちをもう
一度ちらりと見てから降りて行った。　つづく