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カテゴリ:茶木の音楽紀行
京都の家に辿り着いた時には3ヶ月の旅だったのに、何年かぶりに帰って来たみたい
にとても懐かしい安堵感があった。 おじいさんが戦地から引き揚げてお母さんの所に帰って来た時の事をまた思った。 でも「もうドイツには帰りたくない」とは全く思わなかった。 それどころか一日も早くビザを取得して飛行機に乗り込みたかったので次の日に早速 神戸のドイツ領事館に行き、アオルマン先生に書いてもらった推薦文を提出して、学 生ビザ取得の手続きをして連絡を待った。 その間仲の良い友達に会ったりしばらく食べられないであろう日本食を食べあさった 。 連絡が来るまで3ヶ月掛かった。 僕は飛行機のチケットを予約し、その前の日に神戸までビザを受け取りに行った。 ばたばたしていて前日になってしまったのだ。 ドイツ領事館の受付は部厚いガラス越しに相手と話す、そのガラスの下にスライド式 の書類をやりとりする四角い皿があり、それはまるでドイツにいるようだった。 ガラス越しに出て来たのは日本人の女性だったが、しゃべり方も仕草もドイツ人だっ た。 彼女は僕が提出したいくつかの書類を受け取り「それじゃ明日また来て下さい、その 時にビザを手渡します。」ととても冷たい口調で言った。 僕は驚いて「え!今もらえるんじゃないんですか?困った、ドイツに飛ぶ飛行機が明 日なんです。」と言った。 「なんですって!どうしてあなたはそうなの!」と怒鳴って彼女は左の人差し指を立 てた。 「すみません」と僕は謝った。 彼女は舌打ちをして、奥へ入って行きしばらくしてガラス越しに戻って来て「領事は とても忙しいにもかかわらず配慮して下さるそうです、こういった事は異例なことで す、心して下さい。 そこでしばらく待っていなさい」と冷酷な声で言われ、僕はソファーに座って待った 。 しばらくすると名前を呼ばれ彼女の前に行くと、「あなたの先生が書かれた文章を読 みましたか?」と今度は少し穏やかな声で尋ねられ、「いいえ」と答えると、「大変 あなたのことを褒めてあるわよ、きっととても優秀なんでしょうね、しっかり勉強し て来て下さい!はいこれあなたのビザ、気を付けて行ってらっしゃい!」と言って書 類を乗せた皿をこちらにスライドさせた。 僕は「ありがとうございます」と頭を下げ、その場を離れた。 「今度はしばらく戻らない」と両親に告げ、次の日一人で飛行場へ向かった。 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.12.08 10:27:02
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