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2013.01.26
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カテゴリ:読書案内
【田山花袋/蒲団】
20130126

◆男の嫉妬、男の哀しさを赤裸々に描く

忘れもしない、私が高校2年のころ。現代文を教えてくれた先生が大絶賛したのが、この『蒲団』だった。
先生が言うには、「男というものはプライドで生きてるようなものなので、自分の恥になるようなことは決して口外しないし、無論、悟られまいと躍起になるのが普通だ。だが田山花袋はどうだ。小説という形を借りて、自らをさらけ出してしまったんだ。これは文学を語る上で、画期的なことなのだよ。『蒲団』は自然主義文学の代表格だ」と。
もう20年以上も前のことなので、おおよその記憶でしかないけれど、とにかく田山花袋のことを褒めちぎっていたような気がする。
私もその後、『蒲団』を読んでみたが、なんだか主人公・時雄の女々しさが際立っていて、それほど感銘を受けるものではなかった。
だがいつの頃だろう。たぶん最近のことだが、たくさんの読書を積み重ねていくうちに、リアリティというものがいかに重要性を帯びるものかが分かった時、「そうか、これのことか!」と、目からウロコが落ちたのだ。
『蒲団』はあまりにも赤裸々で、こちらがうろたえてしまうほどに核心をついていると言えよう。つまり、現実的で文学的繊細さに溢れているのだ。

『蒲団』の内容はこうだ。
竹中時雄という中年の作家がいて、その男には妻と3人の子どももいる。夫婦生活はマンネリ化していて、毎日がちっとも面白くない。
そんな時、神戸女学院に通う女学生・芳子から時雄宛にファンレターが届く。
芳子は、時雄の美文に惹かれて門下に入りたいとのこと。
考えた末に、時雄は芳子を上京させ、自宅に下宿させることにする。
ところが時雄の細君が面白くない。
仕方がないので細君の姉(未亡人)のところで芳子を下宿させるようにする。
するとまもなく、芳子に恋人ができる。その男は、同志社の学生で秀才。
時雄は、明るく美しい芳子に秘かに想いを寄せていたから、尋常ではいられなかった。

一言で言ってしまうと、男の身勝手さが前面に押し出されている。だがそれだけに人間臭さとか、意気地のない人の弱さとか、未練がましさが圧倒的なリアリティで読者を魅了する。
下手な恋愛小説につきものなのは、不確かな人格の神聖化と、言葉の美化、ありそうもないキャラクター設定だ。
SFやファンタジーというカテゴリに支えられている物語ならともかく、かりそめにも文学という看板を背負った小説に求められるのは、やはり最終的にはリアリティであろう。
田山花袋の表現する男の哀しさを描いた世界観は、プライドを超越した、作家の魂の叫びを聞かされたような気がしてならない。

『蒲団』田山花袋・著

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.38)は連城三紀彦の『恋文』を予定しています。

~読書案内~  その他

■No. 1取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ
■No. 2複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!
■No. 3雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!
■No. 4完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する
■No. 5青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ
■No. 6しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる
■No. 7白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す
■No. 8ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている
■No. 9女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説
■No.10或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル
■No.11東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず
■No.12お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人
■No.13レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?
■No.14山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く
■No.15佐藤春夫/この三つのもの細君譲渡事件の真相が語られる
■No.16角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く
■No.17室生犀星/杏っ子 愛娘に対する限りない情愛
■No.18織田作之助/夫婦善哉 大阪を舞台にした男と女の人情話
■No.19谷崎潤一郎/痴人の愛 この人物の右に出る者なし。日本の誇る最高の文士。
■No.20車谷長吉/赤目四十八瀧心中未遂 生への執着は、性への執着でもあるのか
■No.21松尾スズキ/クワイエットルームにようこそ 平成に新しい文学が登場
■No.22川上弘美/神様 現代における女性版カフカ?!
■No.23丸谷才一/鈍感な青年 男女の営みは滑稽なもの
■No.24宮本輝/流転の海 第一部 戦後の混乱期を生きる日本人の底力を見よ!
■No.25岩井志麻子/ぼっけぇ、きょうてぇ 女郎が寝物語に話す、身の上話
■No.26柳美里/水辺のゆりかご 包み隠さず書くのは勇気なのか、それとも・・・?
■No.27宮尾登美子/櫂 妻は黙って亭主に傅くのみ。殴られても蹴られても耐えるべし
■No.28向田邦子/阿修羅のごとく いくつもの顔を持ち合わせているのが女なのだ
■No.29樋口一葉/にごりえ 明治の娼妓のコイバナ、そして人情沙汰
■No.30南木佳士/阿弥陀堂だより 信州の自然美に触れて生き返る
■No.31東川篤哉/謎解きはディナーのあとで エンターテインメント性重視、ポップでライトなミステリー小説
■No.32辻仁成/ピアニシモ 25歳ぐらいまでに読んでおきたい青春小説
■No.33田口ランディ/コンセント 引きこもりをテーマにした社会派小説をねらうも、結果オカルト小説
■No.34沢木耕太郎/無名 最愛の父を看取るまでを淡々と語る
■No.35浅田次郎/月のしずく エンターテインメント性バツグン! ドラマチックなラブ・ストーリー
■No.36有吉佐和子/香華 花柳界に生きた母娘の愛憎劇

◆番外篇.1新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る!
◆番外篇.2菊池寛、選挙に出る! 読書階級の人は菊池寛氏を選べ
◆番外篇.3芥川龍之介と菊池寛 唯ぼんやりとした不安、ハナはこちらなり。





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最終更新日  2013.01.26 08:32:42
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