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カテゴリ:第5話 サンガララの戦
従軍医と共に、再び、負傷兵の治療場へと戻ったコイユールではあったが、今しがたの突然のアンドレスとの再会に、その心はすっかりここにあらずの状態になっていた。 三年以上前に会って以来、この反乱がはじまってからは、同じ陣営にいながらも彼女の前には全く姿を現さぬアンドレスの真意は、コイユールには推察することしかできなかった。 歳月が経ち、もはや自分のことなど忘れてしまったのか、あるいは、彼の立場や責任の重さ故に、安易な行動をとれぬためなのか…。
いや、アンドレスの真意は、結局は、今も、わかりはしない。 アンドレスの自分に対する感情がどうであるか、ということよりも、むしろ、コイユールは、己のアンドレスに対する感情の強さを、再び、真正面から突きつけられた思いに憑かれていたのだった。
だというのに、偶然、アンドレスを間近に目にしただけで、これほどに心が動揺し、胸苦しいのは、どうしたことだろう…――!! (私、本当は、アンドレスのこと…全然、気持ちの整理なんて、ついていないのでは?) 自問自答しながら、無意識に深い溜息が漏れる。
(いけない…しっかりしないと!!) すっかり慌てて薬草を配合し直しているコイユールに、やはり負傷兵の看護に当たるインカ族の女性が、心配そうに視線を向けた。 「コイユール、少し休んだ方がいいわ。 ここは、私が見ているから、ね。」 と、優しい笑顔で促してくれる。 コイユールは申し訳なさそうに瞳を揺らしたが、しかし、とても仕事が手につく状態でないのは、自分が一番よくわかっていた。 「ありがとう…。 それじゃ、ちょっと…外の空気でも吸ってこようかしら。」 「行ってらっしゃい。」 再び相手の優しい笑顔に背中を押され、コイユールも微笑み返し、「それじゃ…。」と、治療場を出ていった。
そんな空気の中を歩んでいると、ふと、祖母のいる故郷が無性に懐かしく思い起こされてきた。 「お婆ちゃん…どうしているかしら…。」 しかし、たちまち故郷の連想の中から祖母の姿は消えゆき、やはり、そこに現われ出(い)でてくるのは、まだ少年だった懐かしくも愛しいアンドレスの姿ばかりであった。 いっそう切ない思いで胸が締めつけられる。 コイユールは、記憶を吹き飛ばすように、思い切り頭を振った。 そして、険しい目で前方を見据えながら、意識的にアンドレスのことは考えまいとしながら、当ても無くただ野営地を歩みはじめた。
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こんばんは
コイユール、お疲れ様です。 しかし、出会いはあの一瞬だけですか? でも、間近で目を合わせられただけでも…幸せなんでしょうね そういえば、戦争の後で大変な状態なのでした… (2006.07.26 00:58:28)
negibonさん、こんばんは!
>しかし、出会いはあの一瞬だけですか? はい…今のところは^^ でも、何かとご縁のある二人ですので、天地の采配に委ねて見守る心境であります。 >そういえば、戦争の後で大変な状態なのでした… そうでした! 今、そのことをハッと思い出しました。 合戦の爪あとの癒えぬままに…――今宵は長い夜になりそうです。 (2006.07.26 01:39:31)
( ̄~ ̄;) ウーン
風とケーナさん、こんにちは^^ うちの飼い猫、タマさんが天に召されました。 ぬーは元気です。 金曜日に。 母親は大泣きしていました。 タマさんが血を大量に吐いた時は、本当にショックでした。 でも、タマさんは、三十年近く生きていました。 寿命なんでしょう。 五月辺りから外にも行かず、ずっと家の中で過ごしていました。 タマさんは、よく頑張った方だと思います。 そして母親も言いました。 「もう頑張らなくていいよ。ゆっくりとお休み」と。 そして、今は普通の日常が訪れています。 ただタマさんのいた場所は、今は何もなく、少々、寂しいです。 そそ。 暗い話はそれ位にしてw 今、少し、考えているんですが。 一日、一キャラクターを描いてみようかと思っています。 描ける時は、一キャラクターではなく、二でも三でもいいので描くとw 少なくとも一キャラクターを描くという趣向ですw ペン入れは気分次第w と大言壮語を吐いておいて、出来なかったら恥ずかしいですがw ただ、ここらで絵のレベルもあげておかないとと思った次第であります。 ま、出来るか、出来ないかではなく、やるか、やらないかですねw とにかく頑張って漫画家を目指します! では、では。 草々。 (2013.09.01 10:35:25)
四草めぐるさま、こんばんは☆彡
タマさんのことを伺い、 私も胸がいっぱいになっております。 30年近くも生きてこられたのでしたら、 本当の家族も同然だったことと思います。 天に昇られた今、 残されたご家族さまのお気持ちは、 いかばかりかと深くお察しいたします。 ですが、30年ともなりますと、大往生でもありますね。 四草めぐるさまやお母さまたちに愛され、 ぬーたんとも一緒に暮らしたタマさん、 きっと幸せな生涯だったことと思います。 タマさんのご冥福を心よりお祈りいたします。 四草めぐるさまやお母さまも衝撃が大きく、 お悲しみも深いことと存じます。 どうかお心を十分にねぎらわれてくださいませ。 一日、一キャラクターを描いてみようとのこと、 次々と生み出される四草めぐるさまの意欲的なアイデアに、 敬服するばかりです。 今、応援にお伺いしましたら、 早速スタートを切っていらっしゃいますねw どうかご無理のないように頑張られてくださいませ。 ジャンヌ・ダルクもご開幕されたのですね! 悪魔ちゃんと天使くんを読了させて頂きましたら、 是非、楽しみに拝読させてくださいませw いつも本当にありがとうございます.:*・☆ (2013.09.01 23:03:34) |