「アンドレス様…」
俯くアンドレスの傍に、寄り添うように声をかけたのはベルムデスだった。
アンドレスは苦しげに目を上げて、常に静かで穏やかな佇まいを纏う老練の重臣を見つめた。
「ベルムデス殿…」
「アンドレス様、あなた様の策は、ご成功されたのです。
おめでとうございます」
「ベルムデス殿……」
揺れる瞳で己を見つめる彼に、ベルムデスは、そっと微笑んだ。
「どうか、そのようなお顔をなされますな。
ソラータの地を奪還するという、インカの民の切望をついに叶えたのです。
あなた様やインカのために、此度の作戦で懸命に力を振り絞った兵たちは、今は、あなた様の笑顔をこそ、見たいと願っているはず。
それに、まだ、全てが終わったわけではありませぬ。
さあ、アンドレス様、陣営に戻りましょう。
そして、次のご指示を―――」
静かなベルムデスの声に、やがてアンドレスは黙って頷いた。
そして、今一度、完全に水没した眼下の街を見下ろし、吹っ切るように踵を返した。
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≪アンドレス≫
トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。
若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。
≪ベルムデス≫
トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。
既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。
現在は、アンドレスの陣営で、彼を支えている。
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