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カテゴリ:第8話 青年インカ
奥まったマリアノの天幕から、アンドレス自身の居所の傍にあるベルムデスの天幕までは、暫くの距離がある。 ふと、アンドレスの火照った頬に、冷たいものが触れた。 見上げれば、冬の高い空から、はらはらと粉雪が舞い降りはじめている。 (雪が……――) 今は可憐な花びらのように舞い散る雪も、このアンデスでは、ほどなく全てを、その容赦無い白い翼で覆い尽くしてしまう。 次第に勢いを増す雪の中で、彼は、いっそう足を速めた。
激しく白い息を吐きながら、ただならぬ様子で飛び込んできた彼を、しかし、ベルムデスは常の温厚な笑顔で、にこやかに天幕内部へと招き入れる。
そして、二つカップを取り出すと、チチャ酒の壺を棚から下ろしてきた。
さあ、まずは…せっかくですから、いかがですか? たまには、ご一緒に…」 柔和な笑みをつくって問うベルムデスに、アンドレスは、懐の書状を服の上から押さえながら頷いた。
蝋燭の溶け出す音まで聞こえてきそうな、とても静寂な雪の夜だった。 天幕の一隅では、小さな火鉢が暖かな朱色の光を放ち、微かな火の粉を上げながら燃えている。 その炎の放つ閃光を目元に反射させながら、いつにも増して真剣な表情をしているアンドレスに、ベルムデスはカップをそっと差し出した。
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Last updated
2007.12.06 19:37:51
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