格差解消は相続税で
●小泉政権のツケとも言われている問題のひとつに格差問題がある。野党はこれを与党攻撃の格好の材料にしている。ということで「格差」がクローズアップされているが、資本主義社会では、格差は社会システムの前提として存在するものである。●殊更な格差容認の根拠としているのは、「個人の資質や努力に差があるのだから、格差があるのは当たり前である。格差は豊かさを求める経済発展の原動力になっている。結果の平等を強く求めると資本が海外に逃げる」というようなことだろうが、格差が生じるの原因は個人の資質や努力の差以上に機会の不平等にある。●結果の平等を悪平等という人も多いが、これは機会の平等があっての上である。人は機会が不平等であれば、結果の平等を求めざるをえない。ネオコン経済の失敗を教訓に、ベネズエラのチャベス政権を筆頭に南米の多くの国が社会主義色を滲ませているのもこの理由による。●しかし、機会の不平等を容認していて、結果の平等を求めるのは首尾一貫しない。●「結果の平等は働く意欲を殺いだり、資本が逃げていくことにもなる。国際的経済競争に負けてしまう」というのは相続制度を前提とした資本の論理である。●とはいうものの貧富の差が拡大したり、高齢化社会での年金が問題にされるなかで、セーフティネットとしての財源確保が急務になっている。●ところで、高齢化社会と年金問題がセットに議論されているが、これもおかしな話である。未だ働く意欲をもった大量の定年退職者達(団塊の世代が定年を間近にしている)に怠惰を強いて、若年労働者層の働きに年金の原資を求めようとしている。【未来社会:高齢者】参照●民間企業のようにリストラのできない役所という親方日の丸業では、コストカットよりも増税での財源確保が安易な道なのかもかもしれない。●このような流れの中で、消費税を福祉目的税にしようといった主張もある。ところが消費税は、家計に占める生活必需品シェアの大きい低所得者の所得削減効果が大きいから、機会不均等を拡大することはあってもこれを是正する機能は無い。それとも、かき集めたお金は低所得者に還元される…という論法であろうか?●機会不平等の元凶は相続税の制度にある。大きな資産を継承した者は、その資産自身が利益を生み出したり、より有利な教育環境を手にすることができる。資産の浪費だけで生活する者もいるだろう。●従って相続税の廃止、これが当面適わないのであれば強度の累進税率によって確保した財源を福祉目的税とすべきである。●これによって福祉財源の確保と同時に機会の不平等も改善できることになる。福祉には身障者や高齢者介護といった分野だけでなく、教育、医療、雇用保険、年金などを含めるべきである。●大方の人は「相続税の廃止=私有財産の廃止」と考えるかもしれないが、私は私有財産を廃止しようと思っているわけではない。機会の平等を前提に稼ぎ出した富は、その人の私有財産とすべきであって、無償で「他人」の財産とすべきではない。この「他人」に「自身の子供など」が含まれるだけのことである。私有財産は一代限りであるべきである。●かくして、貧乏人の子供として生まれたことの不遇や金持ちへの妬みがなくなり、子供のスタートラインは両親から授かった天賦の資質以外には何もなくなる。●相続制度の廃止や強度の累進税率は、次のように人のライフスタイル自体を変えることになる。・稼ぐために全てを集中する生活から、自身が楽しむためや人や社会のために働くことに価値観が変化する。・子供に資産を残すことができないため、親の資産を当てにせず自立できるように子供を仕向ける。●未来社会では、子供に相続させることができるものは自身のDNAと自らの生き様だけである。●世代間の相続ではなく、配偶者間での相続はどうするのかといった疑問は当然起きる。シルビオ・ゲゼルは公有化された土地のレンタル料を女性の経済的基盤とすべきであると述べているが、一代限りの資産には土地も含まれるわけである。ということで、このようなシステムがあれば、配偶者間での相続制度も廃止できる。【未来社会:経済の仕組み】参照