文明崩壊
●歴史的にみて社会システムが崩壊するのはどのような理由であるかを知りたくて下記の本を読んでみた。2分冊の力作である。(上巻)(下巻)文明崩壊ジャレド・ダイアモンド●英語の原題は"COLLAPSE"である。内容から判断すると「文明崩壊」というよりも「社会崩壊」のほうが適切であるかもしれない。●著者は崩壊した様々な社会の原因を自然と人間社会の仕組みや動機を関連づけて解明している。その内容は何れも克明である。崩壊した社会の分析を通して、人間社会がもたらしている環境破壊によって地球規模での文明崩壊が引き起こされようとしていることへの警鐘を鳴らしている。●著者は社会の崩壊の要因として次の5つを掲げている。 1.環境被害 2.気候変動 3.近隣の敵対集団 4.友好的な取引相手 5.環境問題への社会の対応●崩壊または崩壊の危機に晒されている事例(年代順)として、以下の社会を取上げて分析している。古代マヤ(中米)、アナサジ(北米大陸南西部)、イースター島(東ポリネシア)、ピトケアン及びヘンダーソン島(南東ポリネシア)、ノルウェー領グリーンランド、現代のルワンダ、ドミニカ共和国及びハイチ、中国、オーストラリア●逆に、崩壊を免れた事例とて次のような社会を上げている。ニューギニア高地、ティコピア島(辺境ポリネシア)、江戸時代の日本、アイスランド●著者は、最後に過去及び現在の社会が直面する特に深刻な環境問題は12のグループに分けられるとしている。<天然資源の破壊もしくは枯渇> 1.自然の棲息環境環境の加速度的破壊 2.野生の食料源である魚介類(特に魚)の乱獲による海産資源の衰退 3.野生の種や個体群の消滅や遺伝子の多様性の喪失 4.水や風によって浸食される農地の土壌、人間の農業慣行が引き起こす塩性化などの土壌被害<天然資源の限界> 5.石油、天然ガス、石炭などの化石燃料の枯渇 6.世界の河川、湖沼などの利用可能な真水の枯渇 7.全世界の光合成能力の有限性<人間が生み出した或いは発見した有害な物質> 8.化学工場等で製造される毒性化合物による大気、土壌、海洋、湖沼、河川の汚染 9.外来種による在来種の駆逐などの被害10.人間の行動から発生するガスによるオゾン層の破壊、地球温暖化など<人口問題に関連すること>11.増え続ける世界人口12.人間の数そのものだけでなく、一人あたりの資源の消費・環境侵害量の増大●この12の問題は、順位づけして解決を図るようなものではなく、どれかひとつでも未解決のまま残されたら、甚大な被害を受けることになる。すべての問題は相互に作用しあっている。そのひとつがどの問題であったとしても、私たちは依然窮地に立たされている。全部解決するしかないのだ。…と述べている。●また、「反論への反論-問題から眼をそむける数々の定説の検証」として以下のような定説をとりあげ、その問題点を検証している。 1.環境と経済の兼ね合いが肝心 2.化学技術が私たちの問題を解決する 3.ひとつの資源を使い果たしたら、同じ需要を満たす別の資源に切り替えればいい 4.世界の食料問題というものは存在しない。世界の食料問題は、コメその他の多収穫品種を生み出した「緑の革命」によって解決済みだ。そうでなくても、遺伝子組み換え作物によって解決するだろう。 5.経済的な生活条件は向上し続けている。崩壊が忍び寄っている気配などまったくない。 6.過去に何度、環境保護論者たちの大げさな破滅の予言がはずれてきたことか。もうそんなものには踊らされない。 7.世界の人口の増加率は落ちてきているのだから、人口問題はおのずから解決しつつある。このまま行けば、現在の人口の二倍以下のレベルで落ち着くだろう。 8.世界は増えゆく人口を無限に吸収できる。人が多くなればなるほど、多くのものが創りだされ、ひいては富が増えるのだから、それは望ましいことだ。 9.環境への配慮は、先進国の気楽な金持ちにだけ許される贅沢で、貧苦にあえぐ第三世界の住民にそういうものを押し付けるべきではない。10.環境問題が絶望的な結末を迎えるとしても、それは遠い将来のことで、自分は死んでいるから、真剣に考える気になれない。●人口増加による環境悪化・資源不足は、戦争・内戦、政情不安などの形態をとって現れる。最近の事例としてはルワンダの大虐殺がある。ツチ族とフツ族との戦闘だけでなく、フツ族同士で起こった殺戮も存在した。これは「民族間の憎悪」だけでは説明がつかない…と述べている。●この著者は慎重な楽観主義者を自認しているが、崩壊を回避するロードマップを示している訳ではない。危機の説明には説得力があるが、崩壊を食い止られるだろういう希望の根拠にあげているのは次のような点であり、はなはだ心もとない。 1.現実的に考えて、わたしたちの行く手をふさいでいるのが解決不能の問題ではないということだ。 2.環境保護思想が世界中の一般大衆に広がりつつあることだ。 3.現代世界のグローバル化による連結性の産物だ。過去の社会には考古学とテレビがなかった。●この本は警告の書であって、崩壊を食い止める方策について提案をしようとしているものではないから…こんなことしか書いてないが…しかたのないところであろうか。-----------------------------------●しかし、答えは用意されている。問題は、現在の社会・経済システムの渦中にある人々がその答えを選択しないことである。政治家は選挙で当選するために、せいぜい3年程度の近視眼で政策を立てるにすぎない。大半の人々は、生きるために金稼ぎに奔走しなければならない。●ところで、地球上の資源や環境への負荷の増大は概念的には次のような式で表されるであろう。人口の絶対量×(1人当たり資源使用量・環境汚染量)×(1-1人当たり資源回収率・環境回復率)● 平均すると、アメリカや西ヨーロッパ、日本の住民は、第三世界の住民の32倍の資源を消費し、32倍の廃棄物を生み出すとのことであるから、たとえ世界の人口の増大を押さえ込むことができたとしても、人口割合で大半を占める第三世界の住民が豊かになるだけでいとも簡単に人類文明は崩壊することになる。●しかも現在の社会・経済システムは、前述のように次のような動機や原則で動いている。 1.経済がすべて=利潤追求動機で動く経済 2.「働かざる者、食うべからず」という社会規範・原則●現在の経済システムは、経済成長至上主義であることを要求する。従って<人口>についても継続的増大を要求し(政府の少子化対策がこれを反映している)、<1人当たり資源回収率・環境回復率>を高くすることに企業は極力抵抗する。従って、経済システムを抜本的に人間的・自然的なものに置き換えない限り、崩壊への道を食い止めることはできない。●崩壊を食い止める方策として、私が及ばずながら提案しているのが「未来の経済システム」である。未来の経済システム(説明文)●人類文明の崩壊は秒読みなのかもしれないと分かっていても、現在のマネーシステムに操られている人間にはどうしようもないということになるのであろうか?