「私が総理大臣ならこうする」に寄せて
私が総理大臣ならこうする 日本と世界の新世紀ビジョン [ 大西つねき ]●この著者は、金融資本主義の世界にどっぷりと浸かって株や債券先物のトレーダーをしていたビジネスマン出身であるが、これとは正反対の国や世界のありかたを提言し、その改革のため一人ドン・キホーテさながら政治の世界に身を投じている人である。そして、「私が総理大臣ならこうする」としてその考えを著したのがこの本である。●政治家を目指しているので、当然、お金や税金、国際収支、土地、相続税、防衛問題、人生のありかたなどを幅広く論じている。●私の小説「未来からのメッセージ」とオーバーラップするところが多く、その主張・主旨も同じ脈絡のなかにあると思えた。この物語の中には、配当(ベーシックインカム)、税金、いじめ(教育)、選挙制度、食料と不老長寿の問題、宗教、共産主義やユーロの問題、企業組織、家族関係、芸術、愛とセックスなどに関する話などが盛り込まれているが、考え方が少なからず一致する。●著者は金融取引の世界にいた人だけあって、国の借金の本質、黒字の意味、お金の本質、政府貨幣などについて、多くの誤解を解く形で詳しく説明されている。●日本の経常黒字は国民のため・世界のために使ってこそ意味があると主張し、政府通貨を発行して、一人100万円の黒字還付金の実施、ベーシックインカムの導入を提言している。●ベーシックインカムについては、「実現するのであれば、政府通貨で誰の借金でもないお金を作り、それを配る形で実施しなければならない」ということで、その財源論は政府通貨発行の話とセットの方向へと収斂してきているように思う。●国家経営のあり方として、郵便事業、鉄道事業、送電線、送金網などのインフラの国営・公営化も唱えている。これも当然のことであると思う。●特に新鮮に感じられたのは、土地の公有化と国の安全保障に関する記述である。土地の公有化については、具体的な実施プロセスまで書かれている。●その骨子は「土地の処分権の停止」と「政府の買取保障制度」で政府通貨による土地の買取である。土地を民間に売ってはならないとするもので、売りたい場合は政府に売ること。買いたい(使いたい)場合は、土地所有者がまずその土地を政府に売った後に、政府から借りるものとしている。●この政策を実施していけば、いずれ経済で流れるお金の多くを誰の借金でもないお金(政府通貨)置き換えることができる。体内に毒素をまき散らす腐った血液を抜き、新鮮な血液に置き換えることができるということになる。●安全保障や平和については、国ではなく、人のレベルの視点から見直すべきであるとしている。「国境など本当は存在しません。人間が勝手に引いた見えない線、概念でしかないのです」、「極論を言えば、私は長い目で見て、いずれ国土という概念すら時代遅れになると考えています。人間が勝手に見えない線を引き、その所有を主張し、利害を巡って争うなどという不毛なことは、未来人からすれば全く馬鹿げたことに映るだろう」と書かれているが、私もこのような境界線があると、必ずそこに利害が発生すると考えている。●昨今、日韓関係が様々な問題でギクシャクしているが。殆んどの人が1対1では親しくしていられるのに、国という括りになると、貿易摩擦、領土問題などで利害が全面にでてきて抜き差しならぬ関係に陥る。国益、愛国心、メンツとかでどうにもならなくなり、国防のために軍事力を強化しなければという話になってしまう。●ところで、私は、大きな組織の対立ほど大きな問題を引き起こすと考えている。組織は細胞と同じで有形・無形の境界線で囲まれる。組織の目的は自らの維持と拡大にあるので互いに協調できない場合は、縄張りを巡って競争的・排他的にならざるをえない。国は最も大きな組織と言っていいかもしれない。‥なので、最終的には国境に限らず、企業組織、宗教組織、教育組織‥あらゆる組織の境界線を無くすかぼやけたものにする必要があると考え、「未来社会は境界線のない社会」になると考えている。●著者は世界一の経常黒字国である日本がこのような世界の雛形の社会をつくり、世界を変えていく必要性を説いている。●本の最後にフェア党の理念が簡潔に掲載されている。●私は55歳でサラリーマンをやめてから「未来社会の仕組み」を考えてきたが、社会の仕組みを根本から変えるというような大それたことを行うには、まずはこのような考え方を知ってもらう必要があり、そのためには、小説のようなかたちにして読みやすいものにしてはと思って書いたのが「未来からのメッセージ」であるが‥。行動的で実行力がある大西つねきさんは、一直線に政治の世界に打って出た。●今年の参議院選挙にも出馬する意向のようなので、隣接選挙区に住むものとしてできることがあれば及ばずながら支援していきたい。