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佐遊李葉  -さゆりば-

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2006年09月09日
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カテゴリ:心あひの風
 兵衛尉はようやく気づいた。

 この世は、確かに救いようのない冥さに満ちている。それが人の世というものなのだろう。

 千手や播磨が庶民に生まれた悲哀を背負ったように、自分も貴族として生まれた宿命を背負って行かねばならない。どれほどその道が冥かろうとも、自分の背負った宿命の中で、苦しみのた打ち回りながら必死に生きて行かねばならないのが、人と生まれたさだめなのだ。どこへ逃げようと、そのさだめから逃れることは出来ない。

 だが、そのような冥さの中にも、一条の光はあるのだ。浄土の面影を宿した一条の光が。

 千手は恋しいものを守るために一瞬の命を燃やし、播磨は仏の道に救いを見出した。

 自分には何があるのだろう。

 兵衛尉にはわからなかった。

 だが、どこかにそれはあるはずだ。そしてそれは、自分の背負った宿命、すなわちここにしかない。

 越前は遠くにある浄土の光だ。いつか、そこで見た光を、この京の都で見出すことが出来るだろう。

 いつか、必ず……。

 兵衛尉はしばらく月の光に照らされながら、空を見上げていた。明るい満月が微笑むように、彼の顔を見下ろしている。

 彼の胸に、千手の笑顔が浮かんで、消えた。

 月明かりが内裏の庭に敷かれた白砂を照らしている。両脇を殿舎に挟まれて清涼殿の方へ続く小道にも、白い砂がぼんやりと輝いて、まるで浮きあがっているかのようだ。兵衛尉には、それが自分を導く験(しるし)のように見えた。

 兵衛尉はいつの間にか袍の袖に溜まっていた夜露を振り払うと、しっかりとした足取りで、元来た道を戻って行った。

               (終)





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最終更新日  2006年09月09日 11時11分00秒
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感動しました   ふろぷしーもぷしー さん
『露野』と『心あひの風』、2作続けて読ませていただきました。
当時の貴族たちのみやびな生活や
のどかな町なみの情景、
野山を渡る風の匂いまで感じられそうで、
すっかり、その時代を旅行して帰ってきたような満足感でいっぱいです。

特に『心あひの風』では、
若い兵衛尉の心情 ―― 
殿上人たちへの屈折した思い、
敦賀の湊町への憧れ、
千手への想い、
父への反発など
みずみずしくこまやかに描き込まれていて、
無理なくすっと感情移入でき、
移入しすぎて
兵衛尉が千手の亡骸を見つけた場面では
胸がつまって不覚にも泣けてしまいました。

異国の香り漂う胡弓の調べも、
美しく悲しく、幻想的でした。

また、はじめからずっと謎めいた人物として登場していた播磨が、とても魅力的で、強く印象に残っています。
彼の育った環境や、彼の母の苛酷な生涯が
あまりにも痛ましくて、
播磨の国守に復讐を遂げた時には、
残酷な場面にもかかわらず、思わず心中快哉を叫んでしまったくらいです。

そして、再び兵衛尉の前に現れた僧形の播磨が
千手の観音像を手渡そうとする場面、
兵衛尉がそれをやはり播磨の手に託す場面、
胸が熱くなりました。

穏やかで、枯れたようでありながらどこか洒落っ気のある、爺も魅力的でした。


極上のお菓子を味わった後みたいな、
幸せな気分になりました。
こんなすてきな物語の世界を味わわせていただき、
本当にありがとうございました。

引き続き次作も読ませていただきたいと思います。

   ふろぷしーもぷしー拝
(2011年10月05日 00時28分49秒)

Re:感動しました(09/09)   vyゆりyv さん
ふろぷしーもぷしーさん

素晴らしいご感想を、どうもありがとうございました!
とても美しい文章で、私の方が感動!!(涙)
あまりにもありがた過ぎて、思わずPCの画面に向かって、手を合わせて拝んでしまいました。(←ホントです。笑)

『心あひの風』は私にとってはごく初期の作品なのですが、今でもお気に入りの一つ。このコメントで思い出したので、久しぶりに読み返してみようかな~と思ってます。

その後書いた作品もいろいろアップしてますので、お時間のある時にまた遊びに来てくださいね。
お待ちしています♪
(2011年10月05日 15時20分03秒)


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