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カテゴリ:孤舟
仏への冒涜に等しいこの言葉を聞いても、少年は眉もひそめず逆に納得したようだった。
「そうか。経文であれ今様であれ、御仏の心を説けばみな同じ。死んだ者への良い供養となるであろう。だが、こんな河原に亡骸を置き去りにせず、鳥辺野にでも運んで行ったらどうだ」 「鳥辺野は遠うございますゆえ、我らにその力はありませぬ。それに、下々の者の間では、このような河原に死者を葬るのもよくあること」 乙前は穏やかにそう言ったが、延寿は痛ましそうに呟いた。 「でも、こんな河原においていては人目にさらされるし、すぐに犬や烏に食い荒らされてしまう。それでは嫗があまりに可哀想じゃ。せめて、この川にでも流すことが出来ればいいのに」 それを聞いた少年はこともなげに言った。 「ならば、舟にでも乗せて流せば良いではないか。ほら、そこに舟もある」 確かに、汀の潅木には一艘の小さな小端舟が舫われていた。 「まさか、誰の物とも知れぬ舟を勝手に流すことなど出来ませぬ」 乙前はそう言ったが、少年は早くも牛車の側にいた従者を手招きしながら言った。 「構わぬ。良忠、この亡骸を運んであの舟に乗せよ」 良忠と呼ばれた従者は露骨に嫌そうな顔をして後ずさったが、平然と命じる主の少年には逆らえないのか、しぶしぶさきくさの亡骸を筵で包んで引きずって行った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006年11月29日 11時53分55秒
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