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カテゴリ:羅刹
出迎えに来た師実の乳母に従って、師実の病間のある寝殿へ近づいていくにつれ、辺りには異様な臭気が濃くなってきた。
寝殿の一番奥にある塗籠(ぬりごめ)が、師実の寝室だ。 乳母がそっと塗籠の戸を開けると、中から凄まじい腐臭が鼻を突いてきた。 能季は思わずその場に立ち竦(すく)んだが、頼通は無言のまま塗籠に入っていく。 そして、頼通が高麗縁(こうらいべり)の畳の座所へ腰を下ろすと、乳母はすすり泣きながら目の前の几帳の帳(とばり)を揚(あ)げた。 能季はようやく頼通に従って塗籠に入ろうとしたが、揚げられた帳の向こうに横たわる師実の顔を見たとたん、足に震えが来てそれ以上動けなくなった。 師実は解いた髪を枕の上に広げるようにして仰向(あおむ)いていたが、その髪の中央にある顔はもはや髪と区別がつかないほど青黒く腫れ上がっている。 耳や鼻からは膿のようなものが流れ出し、褥(しとね)や枕を茶色く汚していた。 無造作に投げ出された片手は、既に血の気がなく老人のように痩せ細っている。 ますます強くなった腐臭に思わず吐き気を催して、能季は頼通の背後に力なく座り込んでしまった。 ↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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