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佐遊李葉  -さゆりば-

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2016年05月15日
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カテゴリ:羅刹
 しんと静まり返った東大宮大路に、道雅の奇妙な笑い声だけが響く。

 風もなく、虫の音も聞こえない。

 いつの間にか、大宮川の瀬音すら止まっていた。

 能季ははっとして大宮川の水面を見た。

 黒々とした水が、まるで川底の澱(よど)んだ泥のように鎮まっている。

 それが、見る間にじわりじわりと盛り上がり、やがて二つの赤黒い目が現れた。

 その目はまっすぐに道雅の方を見つめ、じりじりとこちらへ近づいてくる。

 あの怨霊だ。

 そう思った瞬間、能季の身体は縛られたように動けなくなった。すぐ側にいる兵藤太も同様のようだ。

 だが、道雅だけは違うらしい。

 道雅は兵藤太の固まった手を振り解くと、後ろ手を縛られたままゆらりと立ち上がった。そして、ゆっくりと川面の二つの目に近づきながら、低い声で言った。

「なるほど。大宮川に怨霊が出るという話は聞いていたが、やはりそなたであったか。それにしても、まだこんなところにいたのか。とうの昔に地獄へ落ちたと思っておったに」

 二つの目は、しばらくじっと道雅の顔を見返していた。

 だが、やがてずぶずぶと音をさせながら、その全身を現した。

 黒髪を白い肌に纏わせた裸身。

 怨霊はどこから聞こえてくるのかも定かでない、低く掠れた声で道雅に言葉を返した。

「地獄は悪行を尽くして死んだ者の落ちるところ。わたくしは何の悪行も犯してはおらぬ。ただ……男を愛しく思っただけ」


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最終更新日  2016年05月15日 14時36分08秒
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