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カテゴリ:羅刹
帝の側に控える頼通と師実から少し離れた席には、能季の父である頼宗の顔もあるはずだ。
得意の篳篥(ひちりき)か琵琶でも、膝の上に乗せているだろうか。 本来なら能季も、今宵の管弦の宴には父の傍らで竜笛を吹く予定だった。 だが、能季はどうしてもその気になれなかった。 長い間心労に苛(さいな)まれてきたせいか。 それとも何か別のことか。 師実の命を取り戻したあの夜から、何か憑(つ)き物でも落ちたかのように、能季は何をする気もおきなくなった。 それで、はかばかしく宮中へ出仕することもなく、堀河殿の自分の部屋に引き篭っていたのである。 今宵の観月の宴も、物忌みだ何だと理由をつけて断った。 父は残念がったが、雲龍は頼通に取り上げられて代わりの笛ももらえずじまいだったし、第一このところの一件で稽古すらろくにしていない。 仕方あるまいと笑って、父は一人で出かけて行った。 能季にそれ以上何も言わず、責めもせずに。 ↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年06月16日 14時26分38秒
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