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カテゴリ:羅刹
釣殿の上を吹きぬける夜風が少し冷たい。
能季は袖を掻き合わせて腕組みしながら、欄干にもたれて遠くの寝殿に目をやった。 父が外出しているせいで、父付きの女房たちも自分の局に下がっているのだろうか。 寝殿には明かりが見えず、群青の暗い空の下で重々しい桧皮葺の屋根が鎮まりかえっていた。 ただ、撫子色の装束を身につけた年若い女房が一人、手に紙燭のようなものを持って簀子を通っていくのが見える。 その袿の色に、能季の胸は急に締め付けられるように痛んだ。 斉子女王は今頃どうしておられるだろう。 私と同じように、今夜の名月を小一条院の軒端越しに眺めているのだろうか。 能季は胸の痛みを止めようとするかのように、腕組みしていた両腕を強く胸元へ押しつけた。 ↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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