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カテゴリ:羅刹
あの夜、三条の師実の屋敷を辞した能季は、その足ですぐに斉子女王を預けていた高陽院へと向かった。
ところが、高陽院に着いてみると、斉子女王は先ほど強いて願い出て、小一条院へ帰ってしまったという。 能季には、斉子女王からの文が一通残されていた。 御座所に備え付けの白い檀紙に、さらりと書き流された美しい手蹟でただ一行。 あなたのお役に立つことができて嬉しかった、これでもう思い残すことはない、と。 もちろん、能季は翌朝すぐに小一条院へも行ってみた。 だが、斉子女王は姿を現さず、応対に出た瑠璃女御も今後はこちらへ来るのは遠慮して欲しいと言う。 その後も、諦めきれずに何度かご機嫌伺いに行ったが、いずれも同じことだった。 斉子女王はすでに、もう二度と能季には会わないと、自ら決意されたのだ。 あの夜、道雅との間に何があったのか。 それが能季にも会えないと思うほどに、斉子女王を傷つけてしまったのだろうか。 それとも、これから先も実ることのない二人の縁を、自らのその手で永遠に閉じられたのか。 能季の中にまだ美しい思い出だけが残っている、今この時に。 ↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年06月22日 14時04分01秒
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