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カテゴリ:羅刹
能季には、斉子女王の心の奥底はわからなかった。
だが、斉子女王の決意は能季を打ちのめした。 もう二度と、斉子女王に会うことはできない。 堀河殿の釣殿の上で中秋の月光を浴びながら、能季は息が止まる程の衝撃を、今更ながら激しく味わった。 胸がちぎれるように痛み、喉の奥が詰まって息もできない。 心の中に冥(くら)い獣がいて、それが始終のた打ち回り所構わず喰らいついているかのようだ。 手足が痺れ、額に冷や汗が湧いてくる。息を吸っても吸っても、胸が苦しくて喘ぎが治まらない。 目の前が暗くなり、苦痛のあまり能季はその場に蹲った。 こんなに苦しい想いをしながら、これから先も生き長らえていくことなどできるものか。とても我慢できない。 もう何もかも終わりだ。 あのお方に逢えないのなら、これ以上生きていたって仕方がない。 いっそ、鴨川の淵にでも身を投げ捨ててしまおうか。 いや……どうせこの世では添えない運命なのならば。 両袖の中に打ち伏せられた能季の眼が、俄かに冥い光を帯びる。 人をこれほどの苦しみの只中に放り出しておいて、自分だけ勝手に平穏の向こうへ去っていくなんて到底許せない。 絶対に手放すものか。 何としてでも。 そうだ、今から小一条院へ押し入って斉子女王を盗み出そう。 今夜なら、主だったものは全て宮中の宴に参列しているから、そうすぐに追っ手がかかるはずがない。 そして、どこか静かな場所に二人で行って、今までの積年の想いを遂げ、この手で女王の命を奪って、永遠に自分だけのものにしてしまおう……あの道雅がそうしたように。 ↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年06月23日 14時10分06秒
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