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佐遊李葉  -さゆりば-

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2016年06月23日
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カテゴリ:羅刹
 能季には、斉子女王の心の奥底はわからなかった。

 だが、斉子女王の決意は能季を打ちのめした。

 もう二度と、斉子女王に会うことはできない。

 堀河殿の釣殿の上で中秋の月光を浴びながら、能季は息が止まる程の衝撃を、今更ながら激しく味わった。

 胸がちぎれるように痛み、喉の奥が詰まって息もできない。

 心の中に冥(くら)い獣がいて、それが始終のた打ち回り所構わず喰らいついているかのようだ。

 手足が痺れ、額に冷や汗が湧いてくる。息を吸っても吸っても、胸が苦しくて喘ぎが治まらない。

 目の前が暗くなり、苦痛のあまり能季はその場に蹲った。

 こんなに苦しい想いをしながら、これから先も生き長らえていくことなどできるものか。とても我慢できない。

 もう何もかも終わりだ。

 あのお方に逢えないのなら、これ以上生きていたって仕方がない。

 いっそ、鴨川の淵にでも身を投げ捨ててしまおうか。

 いや……どうせこの世では添えない運命なのならば。

 両袖の中に打ち伏せられた能季の眼が、俄かに冥い光を帯びる。

 人をこれほどの苦しみの只中に放り出しておいて、自分だけ勝手に平穏の向こうへ去っていくなんて到底許せない。

 絶対に手放すものか。

 何としてでも。

 そうだ、今から小一条院へ押し入って斉子女王を盗み出そう。

 今夜なら、主だったものは全て宮中の宴に参列しているから、そうすぐに追っ手がかかるはずがない。

 そして、どこか静かな場所に二人で行って、今までの積年の想いを遂げ、この手で女王の命を奪って、永遠に自分だけのものにしてしまおう……あの道雅がそうしたように。


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最終更新日  2016年06月23日 14時10分06秒
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