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カテゴリ:羅刹
そう思った瞬間、能季は己の浅ましさに、思わず両手で顔を覆ってしまった。
この私も、所詮はあの食人鬼……羅刹と同じではないか。 「若君、いかがなさいました」 気がつくと、すぐ傍らの几帳の上に、長身の兵藤太の顔が覗いていた。 片手に小さな燭台(しょくだい)を持っている。どうやら、わざわざ明かりをつけに来てくれたようだ。 兵藤太は釣殿の軒下燈篭(のきしたとうろう)の幾つかに火をつけ、小さな燭台は能季の傍らに置いた。そして、すぐ近くに腰を下ろしながら、労(ねぎら)うように優しく言った。 「大宮川で師実様がお倒れになって以来、いろんなことがありましたな。今はただお疲れでございましょう。何も考えず、ゆっくりお休みなされませ」 能季は兵藤太の心遣いがありがたかった。 だが、胸の痛みは治まらず、むしろ次第に強まっていく。 能季は思わず、うめくように呟いた。 「あの怨霊は、なぜ道雅の命を捻(ひね)り潰し、地獄へ落としてしまわなかったのだろう。あの男は人でなしだ。救いを与える価値などありはしない。それに、あれほど苦しい思いをし、ようやく手に入った命なのに」 兵藤太はしばらく能季の顔を見つめていたが、やがて静かな声音で言った。 「それは、あの怨霊が道雅を愛していたからでございましょう」 ↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年07月05日 14時14分07秒
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