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カテゴリ:羅刹
「だが、あの怨霊はあれほどの悲惨な目に合い、ひどく道雅を恨んでいたではないか。その憎しみが錘(おもり)となって、何十年もあの大宮川に縛り付けられてしまうほどに。それでも、道雅を愛していたと?」
「憎いということは、同時に愛してもいるということ。人間は愛していればこそ、その裏側に強い憎しみを抱くこともございます。でも、あの道雅も言ったように、それらは所詮表裏一体。どちらも元は同じところから生え出たものにすぎませぬ。己が求めていたのは、道雅への復讐ではない……そのことに、あの怨霊は気づいたのでございましょう。ようやく道雅の魂を手にした、その時に」 「だから、道雅を一緒にあの水底へ連れて行ったのだと?」 「はい。愛と相対するものは憎しみではなく、何の関心もない、ということでございますれば。愛すればこそ、あの怨霊は道雅と離れることができなかったのでしょう」 能季は自分の痛む胸にやっていた手を眺めた。 斉子女王を殺したいと思うほどの胸の痛みも、よく眺めてみれば、それは決して斉子女王が自分のものにならないから憎いということだけではない。 それよりももっと深いところに、もっと強い想いがある。 それは、ただ斉子女王と一緒にいたいという焼け付くような熱望だった。 誰かを愛しいと思い、その存在を抱き締め、ただ永遠に側にいて共に慈しみ合いたい。 それは人が誰しも持つ本質な望みであろう。 たとえ、その裏側に胸をえぐるような憎しみがあったとしても。 ↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年07月08日 15時43分41秒
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