羅刹 -93-
「姫宮は近頃あまり人前に出たがりませんの。庭などにはよく降りて、そぞろ歩いたり花を摘んだりしているようですけれど。先ほどから待っているのですが、どうやら今日もこちらへは来ないようですね」 それを聞いて、能季はがっかりしてしまった。 昨夜からそのことばかりを考えて、肝心の要件を忘れてしまうほどに心をときめかせていたというのに。 もしかしたら、私は姫宮に避けられているのではないか。 あの黄昏の日以来、姫宮には会っていない。 姫宮は私のことを恐れ、馴れ馴れしい嫌な男だと思っているのではないか。 いや、そんなはずはない。あの時、姫宮は私の気持ちを受け入れ、唇を許してくださったではないか。 だが、その後心変わりしたとしたら。 姫宮は一体私のことをどう思っておられるのだろう。 少しでも姫宮のことを知りたいと、能季は震える声を押さえて瑠璃女御に言った。「姫宮はお健やかでいらっしゃいますか」「ええ。でも、近頃は自分の部屋に篭(こも)りっきり。わたくしのところにも時々しか顔を見せませぬ。姫宮の部屋の北庇(きたびさし)に住まわせている尼君のところへは、時折話を聞きに行っているようですけれど」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m