露野 -129-
これで、「伊勢物語」を下敷きにしたシリーズは終わりです。これ以降、この時期の「オリジナリティがない」「ストーリーが弱い」という反省点を踏まえて、完全に原作に頼るのはやめ、自分なりの物語を書くという努力をし始めました。とはいえ、私が時代小説を書こうと思いたったのが、「学生時代から大好きだった日本の古典を少しでも紹介して、もっと皆に親しみを持ってもらいたい」と考えたからということもあったので、これ以後の作品も何らかの形で古典の要素を取り入れています。さて、次回からは、「心あひの風」という作品を連載します。これは、『道の口』という催馬楽からインスピレーションを得て書いたものです。催馬楽とは、古代歌謡の一種。元々は民謡のようなものでしたが、平安時代になって宮廷の雅楽に取り入れられ、貴族の宴会の時なんかに良く歌われるようになりました。(いわば、当時の宴会ソングのようなもの?)主人公は、兵衛尉という中流貴族の男。受領であった父の赴任先である越前で過ごした少年の日の初恋を回想します。今回は前回の「露野」の半分程度の中篇です。どうぞお付き合いくださいませ。m(__)m