「アズールとアスマール」
ふとチャンネルを合わせたら、予告編をやっていた。見て、「この映画に絶対行きたい!!」と思った。その絵を大きなスクリーンで味わうだけでもシアワセになれそうな映画、それが、「アズールとアスマール」。アラビア人の乳母に育てられた領主の子アズールが、子守唄に聞いたお姫様に会いたくて、長じてアラビアに行こうとする。彼が見るイスラム世界の美しさが、これでもか、というくらい鮮やかな色彩で表されている。市場の果物も、女たちの装いも、ヤシの木の森も、館の中庭も。はっきりしていて、なめらかで、そしてイスラムのモザイクタイルそのままの緻密さで。ギリシャ正教のキリスト画イコンのような神々しさで。人間が何かを見たとき「きれい・・・」と思う、その感性を200%刺激するファンタジー。その美しい寓話に隠されたテーマは深い。ヨーロッパ人とアラブ人が乳兄弟になる、と聞けばピンとくるだろう。小さい頃から本当の兄弟のように遊んだり、ケンカしたりしながら大きくなった二人が、長じて再会する。その時、二人の間にどんな感情があるか。そして、その感情に、変化はあるのか。この映画に出てくるアラビア語は、吹替えも字幕もない。日本語に吹きかえられているのは、フランス語のところだけ。異世界に迷い込んだ感覚を体験してほしい、というのだ。この、アラビア語がまた、フシギ感覚で絵とマッチ。もちろん、それで筋がわからなくなるような作りにはなっていない。日本語版の翻訳。演出はジブリの高畑勲が担当。ほれ込んだミッシェル・オセロの作品のよさを守り、引き立て、素晴らしい。キーパーソンとなるクラプーの声優は香川照之。彼とわからないくらい、キャラクターになりきって物語を盛り上げる。アズールもオトコマエだけど、アスマールの浅黒い筋肉質の上半身に、女性はちょっとドキッとするかも。アラブの女性はみなミスユニバースに出られるくらい端正に描かれている。アズールならずとも、殿方は誰しもうっとりすることだろう。途中まで目のみえないふりをするアズール。クラプーから聞く周りの説明と、実際の美しい風景とのギャップが面白い。目が見えることのシアワセ、美しさを感じられる心を持てるシアワセを、二重にも三重にも実感する映画だ。渋谷のシネマ・アンジェリカにて。ぜひぜひ、ご覧あそばせ。アズールとアスマール映画館では、この映画の絵本も売っている。これが、本当に、本当に、ものすご~~~~く美しい。ここに載せた画像の500倍は美しい。もしかしたら、映画より美しい。もちろん、映画を見たから、いっそう美しく感じるのだけれど。ライターにとって「美しい」の連発は本来タブーだけれど、私は、みんなに、じかにこの絵本に触れてほしい。そして、どう「美しい」かを、自分で感じてほしい。「きれい」と「美しい」の違いも、感じてほしい。あなたが幸運にも「見る」能力を持ち、そして幸運にもものを「美しい」と感じる心を持っていれば、きっと好きになる。もし、世の中のすべてがボロぞうきんのように見えるような日々を過ごしていたとしても、もしかしたら「美しい」と感じる心を取り戻せるかも。そんなふうにさえ思える絵本です。(2100円)パンフレット800円も紙芝居みたいに作られているけれど、紙の質が異なるので、絵の輝きが違う。二つを比べると、絵本の魅力には勝てず、私は二つとも買ってしまった。なお、三鷹の森ジブリ美術館のギャラリーでは、5月19日から「アズールとアスマール」展を開催しているとのこと。