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Apr 26, 2007
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カテゴリ:日記小説

 13.

「矢嶋さんの見立ては正しいとおれも思う。今の美由紀の位置はニュートラルだけれど、そこから動こうとしたら必然的にどこかとぶつかることになる。こういう時に国家は言葉は使わない、より確実な武力に頼ろうとする。複数の思惑が絡んでいるなら尚更だ。絶対に衝突は回避出来ない」
 それは正にジーニアスなコミュニケーションだった。傍らの矢嶋にはさっぱりどころか全く、二人の会話が理解出来なかった。身振り手振りも交えながら、あのだのそのだと何を指すのか全く意味不明の指示代名詞と”切っ掛け”だけでその会話は構成されていた。以心伝心の具象そのものだった。
 美由紀は少し涙ぐんでいた。智英もそれは同じだった。
 矢嶋は理由の判らない居心地の悪さを覚えていた。思わず、感動の再開中申し訳ないんだが、と半畳を入れそうなったがその隙すら無かった。時間が貴重であるのは二人とも知悉していた。会話を続けながら智英は助手席に、美由紀は後部座席に乗り込んだ。矢島は苦笑した。白馬の王子様のご登場ってワケか。
 ようやく矢嶋を加えた会話の、智英の第一声がそれだった。
 美由紀は情けなさそうな顔ででも、と言い掛けそのまま口ごもった。
「判ってるだろ?そう、不毛な感情論だ」
「でも」と美由紀はそれでも言い募った。
「せめて、政府の保護を・・・」
「君たちの理想は言葉じゃなく何となく理解出来た、気がする」
 矢嶋は初めて口を挟んだ。
「政府はそれを阻害するなうん、間違いない」
「政府高官の玩具が関の山だね」
 智英も同意する。
「血路を開いて、一時、日本から離れるしか、ない」
「これは、素晴らしいものなのに」
 美由紀は諦めきれなかった。
「皆、幸せになれるのに」
「その、前提も疑問符だよ」
 と智英。
 え、何が、と言い掛けた美由紀の前で、タブレットを一つ口に放り込み、おえっと吐き出してみせる。
「何するのよ!!もったいない」
 フリ、だった。智英はタブレットを指先で弄びつつ。
「一般的シミュレーションさ。美由紀たちもそうだったろう?」
「あ・・・」
 かつて自分たちが智英の創作料理にどう反応していたか。言われて見れば当然だった。
「そんなにヒドイのか」
 ひょいと矢嶋がそれを手にした。
 一瞬の出来事だった。そのまま口に放り込む。
 舌先を、否、口中を衝撃が突き抜けた。手榴弾を口の中で爆発させた方がまだマシと思えるほどの。
 不味い、などというのん気なものでは無かった。舌に備わる感覚器官全てを同時に破壊せんとする悪意。
 この世に存在する全ての悪意と不都合を味覚に置き換え、タブレットに凝縮したかの。
 舌先をなぶるその”威力”に耐え切れず自動的に吐き出しそうになるがしかし予感があった。
 意志の力で捻じ伏せ、噛み砕き、嚥下する。
 それは直ぐに到来した。
 
 ずぐん
 
 頭の中、脳の中枢で何かが弾ける感触。
 その時だった。
 破壊音というより破裂音を発して、防弾仕様のフロントグラスが砕け散る。
 一撃で。
 対物ライフルか。おれを標的に狙って来たか。
 邪魔なのか、そうだろうな。
 一瞬だった。思考がほとばしる。
 自分で自分に驚く間も無かった。
 空中に、丸い円が見える。
 銃弾だった。徐々に大きくなる。もちろん接近して来ているのだ。
 自身、身をかわしながら後席の智英も弾き飛ばす。
 銃弾はヘッドレストを貫通し、智英の過去位置を通過し後席をも貫通、車体にメリ込む。
 狙撃者の驚愕が伝わってくる。バカな、在り得ない、と。
 アクセルを踏み込む。
 そしてこちら側からも応射。後席に伸ばした手に智英がライフルを渡す。レミントンM700、ボルトアクションライフルの代名詞とされ、ナム戦から現代にまで伝わる名銃だ。
 二発目の弾の”見え方”から狙撃位置の見当はもう付いていた。
 両手をハンドルから離し、手放しでハマーを進めながらそのビルの屋上にスコープを向ける。
 発見。明らかに動揺している。
 1射目で弾道計算、2射目で相手の肩を射抜く、3射目で相手のライフルを、破壊。
 流れる様な見事な狙撃を行い、傍らにM700を置き、再びハマーのハンドルを握る。
 矢嶋自身が一番驚いていた。スナイパーの経験は無かった。だが、判ったのだ。
 なるほどこれは、凄い、大したシロモノだ。為政者がこぞって欲しがるワケだ。
「もう2、3粒、もらうぞ」
 さすがは戦士、と二人はその点でも驚いていた。フツーの人間の殆どは二度とタブレットを口に使用としない。殆どの人間はその苦痛に耐え切れない。粉末状にして吸引する等を試みるがそれではまず、効果はない。舌で味わうことに意味と理由があるからだ。しかし矢嶋は再びその”荒行”を平然とこなしてみせた。
 二人は更に驚いた。矢嶋の身体にみるみる”張り”が出てきたからだ。元々戦士らしい筋肉質の身体だったが、今の矢嶋は現代戦の戦士ではなく闘士、コロッセウムに佇む剣闘士の様な肉体だった。着込んだ戦闘服の上からでもそれが見て取れた。矢嶋の緊張感に反応しての”脳”からの指令により、その身体が対処している様だった。





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Last updated  Apr 26, 2007 12:04:51 AM
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