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時空の流離人(さすらいびと) (風と雲の郷本館)

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September 13, 2013
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 本書を一言で言えば「泥棒の話」なのだが、主人公のマーティンは、かなり変な泥棒だ。何しろ、そのポリシーが独特である。入る家はあらかじめリストをつくって決めており、同じ家に何度も入るのだが、滞在時間は15分以内。相手に無くなったと気づかれるようなものは盗らない。高価な物を狙うときは、長い時間をかけて、大丈夫なことを確認したうえで盗む。普段盗むのは、食料や、せっけん、トイレットペーパーなどの日用品ととってもつつましい。もちろん、これらの品もばれないように、少しずつ盗んでいく。例えば瓶に三分の二ばかり残っている洗剤があったとすると、その半分だけを盗んでいくという徹底ぶりだ。だから、彼が盗みに入ったところは、泥棒に入られたことすら気が付いていないのである。

 マーティンのやり方をビジネス的な視点から見ると、極めて道理にかなっていることが分かる。何事にも差別化というものは大切だ。たとえ泥棒をやるにしても、そこには明快な事業戦略というものが必要なのである(笑)。泥棒稼業のオペレーションについては、上に述べた通りなのだが、それ以前にも色々と戦略的に考えている。

 例えば得意先は、候補をきちんとセグメント分けをしたうえで、十分な分析・リサーチを行ってから選んでいる。すごいのは、緊急時の対応法だってちゃんと考えているということ。もし、仕事中に、火事になったり地震が起きたりしても大丈夫なのだ。こんなことまで考えて泥棒に入る人間は他にはまずいないだろう。泥棒とはいえ、きっちり自分のビジネスモデルというものを確立しているというのが面白い。時には、こういった経営学的な視点から小説を読んでみるのもなかなか楽しいのではないだろうか。

 しかし、このマーティン君、色々と考えて、泥棒戦略を立てている知能犯ではあるが、変なところに律義だ。仕事中、その家の奥さんの使っている歯ブラシが便器の中に落ちたことがある。彼は、同じ家に何度も入っているうちに、その家の住人に一方的に親しみを感じてしまうという性癖があるため、彼女にそんな汚い歯ブラシで歯磨をさせるなんてとんでもないというように考えてしまう。かといって、歯ブラシが無くなったことに気がつかれると、もうここに忍び込むことができないので、捨てる訳にもいかない。ここはもう、新しい歯ブラシを買うしかない。ところが、次から次にトラブルの連続で、絶体絶命の大ピンチに。この辺りのドタバタ感は、いかにもアメリカンコメディという感じだ。

 ずっとこんな感じで行くのかと思ったら、後半少し様子が変わってくる。マーティンは、お得意様に親しみを感じているものだから、もうサービス満点。その家で何かちょっとした問題があると、こっそり助けようと尽力してしまうのだ。ある時、危険な性犯罪者が、お得意様を狙っていることを知り、これを何とか防ごうとする。しかし、何と言っても泥棒の身である。表立って目立つようなことはできない。いったい彼はどうやってお得意様を救うのか。この辺りのストーリー展開は、結構ハラハラさせられ、サスペンスとしてもなかなか楽しめるだろう。

 結局、この事件により、彼は新しい人生を歩む決心をすることになる。泥棒という非合法な稼業に身を置きながらも、人を救うためには自分の身体を危険にさらす事も厭わない。つまりこれは、そんな男が、陽のあたる道を歩き出そうという再生の物語だったのだ。

※本記事は、「本の宇宙」に掲載したものの写しです。





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Last updated  September 13, 2013 11:56:08 AM
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