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照千一隅(保守の精神)

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「照千一隅(しょうせんいちぐう)」(一隅を守り、千里を照らす)は伝教大師・最澄の言葉。本を読み、考えたことをこのブログに書いて参ります。ご意見、ご感想など御座いましたら是非お寄せください。

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2023.01.06
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カテゴリ:歴史

歴史家の陥っている窮境は、人間の本性の1つの反映なのであります。生まれたばかりの乳児期とか非常な高齢とかは恐らく別でありましょうが、人間というものは、決して残りなく環境に巻き込まれているものでもなく、無条件で環境に従っているものでもありません。その半面、人間は環境から完全に独立なものでもなく、その絶対の主人でもありません。人間と環境との関係は、歴史家とそのテーマとの関係であります。歴史家は事実の慎ましい奴隷でもなく、その暴虐な主人でもないのです。(E・H・カー『歴史とは何か』(岩波新書)清水幾太郎訳、p. 39)

The relation between the historian and his facts is one of equality, of give-and-take.

(歴史家と事実の関係は、対等の、持ちつ持たれつの関係です)― cf. 清水訳、p. 39

 ※清水訳では、「平等の関係」となっているが、歴史家と事実の関係は、「対等」ではあっても「平等」ではないだろう。

実際の歴史家が考えたり書いたりする時の自分自身の仕事ぶりを少し反省してみれば判ることですが、歴史家というのは、自分の解釈にしたがって自分の事実を作り上げ、自分の事実にしたがって自分の解釈を作り上げるという不断の過程に巻き込まれているものです。一方を他方の上に置くというのは不可能な話です。(同)

 歴史家は事実の仮の選択と仮の解釈――この解釈に基づいて、この歴史家にしろ、他の歴史家にしろ、選択を行なっているわけですが――で出発するものであります。仕事が進むにしたがって、解釈の方も、事実の選択や整理の方も、両者の相互作用を通じて微妙な半ば無意識的な変化を蒙(こうむ)るようになります。(同、pp. 39f

 「過去の事実」は、歴史家の解釈が施されて「歴史的事実」となる。一方、歴史家の解釈は、「過去の事実」および「歴史的事実」によって規定される。詰まり、歴史家は、<事実>と<解釈>の間を往復運動しながら、「歴史」を作り上げて行くのである。

そして、歴史家は現在の一部であり、事実は過去に属しているのですから、この相互作用はまた現在と過去との相互関係を含んでおります。歴史家と歴史上の事実とはお互いに必要なものであります。事実を持たぬ歴史家は根もありませんし、実も結びません。歴史家のいない事実は、生命もなく、意味もありません。(同、p. 40

 <歴史家は現在の一部>というのも承服しかねる。成程、歴史家は現在を生きている。が、歴史家が歴史を描く「視点」は、必ずしも「現在」にはない。そもそも「現在」から「過去の事実」を見ようとしても、遠過ぎて見えない。歴史家は、過去の出来事を当事者のごとく見ることによって、「過去の事実」を捉えようとするのである。

My first answer therefore to the question 'What is history?' is that it is a continuous process of interaction between the historian and his facts, an unending dialogue between the present and the past.

(したがって、「歴史とは何か」という問いに対する私の最初の答えは、歴史家と歴史家の事実との継続的な相互作用の過程であり、現在と過去との間の絶え間ない対話である、というものです)― cf. 清水訳、p. 40

 <歴史家と歴史家の事実との継続的な相互作用>というのも疑問である。言うなら、歴史家の「事実と解釈」の相互作用ということだろう。<現在と過去との間の絶え間ない対話>も、「進歩史観」に毒された変梃(へんてこ)な話に思われる。【第1章了】






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Last updated  2023.01.06 21:00:08
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