週間朝日連載22
がんばらないけであきらめない
鎌田実
悲しみの重さを少しだけ軽くしてあげたい
「がん難民」という言葉を知っていますか?
進行したガンを持っている人や、再発したがん患者さんは行き場を失っているらしい。「やることはありません」「長くは入院させられません」。冷たい言葉が日本中の病院に広がっている。見放された患者さんや放り出された患者さんが多いという。
暖かい病院が少なくなってきたようです。17年前、私ががんで入院した大学病院もそうでした。「本当に切らなければいけないんですか?」「いけませんね。手術は5日後に行います」主治医とはただそれだけの会話でした。
私の妻の父親も肝臓がんで入院。手遅れだったので抗がん剤の持続点滴です。辛抱強い父でしたが「やはりもの凄くいたい」と言っていました。そしてトイレに行けなくて失禁をしたことがありました。「ベットが汚れるので、防水シーツをして下さい」これが看護婦さんが父に言った言葉です。
医療費の問題が今社会的に問題になっています。医療改革だけで患者のための医療が受けられるようになるのでしょうか?
患者に暖かい病院作りというのは昔から無視され続けているように思われてなりません。
もし今私ががんが再発したなら、もう病院には入院したくありません。
現実となると入院しないといけないと思いますが、何か虚しい気がします。
こんな気持ちの時、諏訪中央病院の看護ケア病棟の話を読むとなぜか心が洗われます。
おつきあい46日希望に救われた
なぜ希望に救われたのかは今週の週間朝日を読んで下さい。
「食べようと思っても食べられないんです」
「山は無理でもキャンプは出来る。病院の庭にみんなで出よう。彼にテントをはってもらおう。日陰を作ってもらって、飯盒でご主人にご飯を炊いてもらう。彼の食事なら食べられるかもしれない」
夢のキャンプは出来なかった。彼女は息をひきとった。
緩和ケア病棟のリビングの日だまりには、この日、涙はなかった。ぼくらは不幸せを幸せにしてあげることなんてできないけど、命に寄り添うことで、悲しみを少しだけ軽くしてあげることはできると思った。
がんになった人の気持ちはがんになった人にしかわからない。がんに罹ったことのない外科医にがん患者の気持ちなんか絶対にわからないと常に思い続けていましたが、そうでもないようです。
心の温かい、思いやりのある医者は現在の医療制度の中でも存在しているようです。
少し心が救われた気持ちがしました。